日常で役立つ行動経済学。「代表性バイアス」がもたらす様々な思い込み

●「時計を見るとゾロ目」「同じ信号に引っかかる」など、日常的に「あるある」と感じることでも、実はそう思い込んでしまっているだけの場合がある。
●これは行動経済学で“代表性バイアス”と呼ばれる「自分の中で代表的だと思うケース」が他のケースより強く印象に残ってしまう脳の働きのこと。
●経済学の考え方だが、投資やギャンブルだけでなく日常生活やスポーツでも統計的に正しくない判断をしてしまう原因と指摘されている。
●完全に回避することは難しいが、メカニズムを理解すれば客観性を取り戻せるので、知っているだけでも日常的に役立つ。
●「気がする」と思ったときは、自分の中でイメージを作ってしまっていないか、一度振り返ってみよう。

「時計を見るとゾロ目のときが多い気がする」「なんだかいつも同じ赤信号で止まっている気がする」

こうした「気がする」は誰しもが経験する“あるある”ではないでしょうか。なんでもないことから悩みの種まで、人によって様々な「気がする」をお持ちだと思います。しかし、確信を持っていた「気がする」も、後になってみると間違っていたと思えたり、もうすっかり忘れてしまっていたりしませんか?もし思い当たる記憶があるのなら、その「気がする」は“代表性バイアス”によって引き起こされた「思い込み」だったのかも知れません

これから紹介するのは、行動経済学の考え方です。昨年度のノーベル経済学賞を受賞するなど、なにかと話題になっている行動経済学。実は、日常生活に役立つ情報が多く含まれたとても興味深い学問なのです。当記事では、私が大学で専門的に研究していた行動経済学の中でも、特に日常で実感できる“代表性バイアス”について紹介します。

代表性バイアスは「思い込み」を生み出す脳の働き

“代表性バイアス”の意味とメカニズム

結論から申しますと、代表性バイアスとはズバリ「自分の中で代表的だと思っているケースに偏った、正しくない判断をしてしまう現象」です。

これは経済学に社会心理学の考え方を取り入れ、経済を動かす人間の様々な行動の根拠や心理について研究・分析する、行動経済学の学説です。バイアスとは「偏り」を意味する英語で、こうした間違った判断を引き起こす様々な要素をまとめて“認知バイアス”と呼び、「バイアスにかかる」「バイアスが働く」という使い方をします。代表性バイアスはその認知バイアスのひとつ、という訳です。

先ほどの時計のケースを例に、代表性バイアスの働きについて説明しましょう。きっかけは様々ですが、例えば偶然2回続けてゾロ目の時計を見るタイミングがあったとします。すると自分の中で「よくゾロ目を見る」というイメージが作られるので、次に5時55分に時計を見ると「やっぱりゾロ目だ!」と印象に残ります。一方で、20分後の6時15分は特に規則性の無い数字ですので、時計を見たことさえすぐに忘れてしまうでしょう。

この「イメージに合う記憶が優先して残る」という現象にこそ、代表性バイアスが働いており、ゾロ目の記憶ばかりが残るようになっていくのです。そうした繰り返しの結果、連続でゾロ目を見たというたった1度のケースが時計に関する“代表的なイメージ”になり「自分はよくゾロ目の時計を見る気がする」という思い込みが発生してしまうのです。
赤信号の場合も同様で、たまたま2回連続で同じ信号で止まった場合に「この信号には引っかかる」という自分の中の代表例が作られて、スムーズに通過した場合は印象に残らなくなってしまっているだけと考えられます。

“代表的なイメージ”の作られ方は人それぞれで、1回の出来事でイメージができる場合もありますし、多少の繰り返しで左右されない人もいるでしょう。先ほどの例えでは6時15分を規則性が無く印象に残らないと説明しましたが、6月15日生まれの人にとってはゾロ目よりも強く印象に残る、ということもあり得ます。

「思い込み」は避けられない?

では、何故このような思い込みが生まれてしまうのでしょうか。これは、身の回りで起こること全てを記憶していると脳に膨大な負担がかかってしまうため、「必要そうな記憶」を優先して残し、そうでないものを忘れようとする脳の働きだと考えられています。これは誰にでも起こりうる正常な脳の機能ですから、様々な「思い込み」に入り込んでしまうのは仕方のないことなのです。
このとき、代表性バイアスによって「思い込み」が生み出されているというメカニズムを知っていれば、固まってしまったイメージから離れて物事を客観的に判断し、偏りのないフラットな判断に帰ってくることができるでしょう。

それでもまだ「気がする」ということがあるのならば、それは思い込みでは無く貴方が独自に発見した法則性なのかも知れません。

ギャンブルからスポーツまで、避けられないバイアス

投資・ギャンブルにおけるバイアス

代表性バイアスは、これまでに挙げた例以外にも様々な場面で私たちの判断を偏らせます。特に行動経済学では投資やギャンブルといった経済活動の場面で研究されており、ポピュラーな例としてはコイントスのような一定確率のギャンブルが挙げられます。
コイントスにおいて、表と裏の出る確率はそれぞれ同じです。それを分かっていながらも、続けて表が出ているのを見るとどうしても「次は裏が出そう」と思ってしまう感覚は、誰しもが理解できることでしょう。いくら「裏が出そう」と思えるタイミングであっても確率は変わりませんが、本当に裏が出た場合は読みが当たった気分になってしまいます。こうした感情で一度でも分の悪い賭けに成功してしまうと、以降もそのイメージから逃れられなくなり、これがギャンブルにおける失敗の一因になるのです

スポーツにもバイアスは働く

一見すると経済学とは無縁そうなスポーツでも、バイアスによる「思い込み」は避けられません。論理的・数字的な根拠が無くとも、実際にプレーしている多くの人が「思い込んで」しまっている内容が「正しい経験則」として語られてしまうケースがあるのです。

例えば、サッカー中継を見ていると解説者がよく「2対0は最も危険なリードです」というフレーズを使っているのを聞きます。しかし、シンプルに考えれば点数が開いていれば開いているほど勝てる確率が高い安全なリードなのですから、1対0の方が危険なはずです。もちろん、プレーをしている選手にしか分からない戦術的な理由は存在しているのでしょうが、「最も危険」と言い切る根拠はどこにもありません。

それでも中継を見ている私たちは、「最も危険」と言われるとそのイメージを植え付けられますし、もし実際にその中継されている試合が2対0からの逆転劇を演じるようなことがあれば、その説を強く信じてしまう場合もあるでしょう。これも、一試合だけを代表例として偏った判断をしてしまっている”代表性バイアス”の働きです

知っているだけで役立つ行動経済学

例を挙げればキリがありませんが、とにかく私たちの身の回りには「思い込み」を生み出す要素があふれていて、それだけ代表性バイアスも潜んでいると言えるでしょう。先ほどのサッカーの例のように、イメージを他人やメディアから受け取ってしまうこともあり得ますから、完全に回避することは簡単ではありません。
それでも「もしかしたらバイアスが働いているかも知れない」という客観的な考え方を持っているだけでも、大いに意味があります。自分の感覚を過信していることに気付けたり、ネガティブな思い込みを回避したり、投資に限らず様々な場面で役立てられるでしょう。

繰り返しになりますが、身の回りには「思い込み」の種が数多くあります。自分自身の考え方はもちろん大事にしなければいけませんが、これからは「気がする」ことがあれば、一度自分の中のイメージが固まってしまっていないか、振り返るようにしてはいかがでしょうか。

この記事を書いた人

日常で役立つ行動経済学。「代表性バイアス」がもたらす様々な思い込み

飯田 章平

ライター

大阪府出身・在住。1993年生まれ。
高校では競技クイズに、大学では野球と行動経済学に熱中。卒業後、イベントスタッフや地方公務員を経てライターに。学術的な内容からカルチャー、エンターテイメントまで、幅広く「面白い」「興味深い」を伝えられるライターを目指して活動中。
趣味はゲームとスポーツ観戦。

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