「ガス燈」。それは電気をエネルギーとして光る電灯ではなく、文字通りガスで燃える灯りである。”そんなもの知らない”という方がほとんどかもしれない。
しかし、筆者は胸を張って言おう。あなたの近くにガス燈はある、と。ガス燈はなんと全国に約3,000灯(東京ガス調べ、2014年3月時点)も存在するのだ。観光地として訪れるあの名所の近くに、あるいは都内デートスポットのすぐ近くに、ガス燈はある。多くの人がこれらの美しい景色を見逃しているのは、残念であると言わざるをえない。
この記事を読んでくださったあなたなら、今後ガス燈の一際美しい灯りに気がつくことだろう。インスタ映え間違いなしのその灯りを、是非あなたが知る自慢のうんちくにしてほしい。
「西郷どん」の時代にも憧れられた、ガス燈の歴史を勉強してみる
そもそもガス燈なるものは、いつから日本にあるのだろうか。「正統」と言える断定方法は、現代の都市ガス事業、つまり「公共事業」としてのガスの利用が始まった後、最初に使用されたガス燈を「日本最初のガス燈」とすることだろう。そしてこれらの関連性を歴史的に追及していくと、ガス燈の凄さがわかるのだ。
日本のガス事業の端緒は、明治5(1872)年のこと。高島嘉右衛門という人物が「日本ガス社中」を設立し、横浜でガス事業を開始した。このガス事業の開始だが、実は現在のようにお湯を沸かしたり、調理をしたりするためのガスを届けるためではなかった。そうしたガスの使い方はまだまだ後の時代のことだ。
実は明治5年、西洋化・近代化著しい横浜港にはたくさんの外国人がやってきていた。しかし彼らは口々に「日本の夜は暗くて怖い」と言った……そう、高島嘉右衛門はまさに「ガス燈」を横浜に灯すためにガス事業を開始したのだ。したがって横浜港の周辺、現在の馬車道近辺は、日本ガス事業の発祥・日本ガス燈の発祥の地とされている。
たしかに馬車道にはこんなプレートが。これで「日本最初のガス燈」が事業として灯された場所ははっきりした。
しかしながら、実はこれ以前にガス燈を灯していた場所がある。ひとつは大阪だ。横浜のガス燈よりわずかに一年早い明治4(1871)年、大阪の造幣局周辺にガス燈が灯されていたのだ。これは「事業」でこそないものの、日本で最初のガス燈と言えるかもしれない。
しかし!実はさらに先を行く強者が薩摩の国にいたのだった。その人物は、NHK大河ドラマ『西郷どん』にて渡辺謙さん演じる「島津斉彬(当時の薩摩藩藩主)」。彼はなんと薩摩藩の松木弘安(寺島宗則)や八木称平ら蘭学者に蘭書を研究するよう命じ、ガス燈の実験に成功したと言われている。それは安政4(1857)年の出来事で、大阪のガス燈よりもずっと前である。さすが薩摩の男、というところだろうか。果断の精神に満ちあふれている。
数々の観光名所にも負けない、金沢の歴史あふれるガス燈を知ろう
北陸新幹線の開通以降、観光地として株価急上昇中の金沢。皆さんのなかには行ったことのある方も多いのではないだろうか。そこには兼六園、金沢21世紀美術館、ひがし茶屋街など、魅力的な観光地が数多くある。
しかしながら、こうした観光スポットのど真んなかにとても美しいガス燈があるというのをご存知の方はどれくらいいるだろうか。歴史情緒あふれるひがし茶屋街のど真んなか。実はここに、数多くの人びとが見過ごしてしまっているガス燈があるのだ。
もう、通りかかる皆さん一人一人に「これガス燈なんですよ、見てください!」とお伝えしたいくらいである。歴史情緒にあふれる街並みで和菓子やお茶をいただきながら、ふと上を向いてガス燈を探してみてほしい。
このひがし茶屋街までは徒歩でわずか2kmしかないので、お散歩にはちょうど良い距離。そして何よりも、ひがし茶屋街そばの川沿いに筆者イチオシのガス燈が並んでいるのだ。
住宅の照明以外は全てガス燈。この情緒あふれる道は、泉鏡花ゆかりの地であることにちなんで「鏡花のみち」とも呼ばれている。浅野川沿いの浅野川大橋(ひがし茶屋街すぐ近く)から金沢駅方面までしばらくの間は、このガス燈が照らしてくれる道を歩くことができる。是非この素敵な散歩道を、夕暮れ以降に歩いてみてほしい。
街の印象がガラリと変わる、東京都内にたたずむガス燈を知ろう
東京都内にお住まいで、旅行や遠出なんて全然しないという方もいるかもしれない。そんな方にももちろん、お楽しみいただけるガス燈はある。オフィス街にも、有名なデートスポットにも、ガス燈はひっそりとたたずんでいるのだ。そのほんの一部をご紹介しよう。
まずは丸の内の三菱一号館にあるガス燈。今も昔も日本の中心地を優しく照らし続けてきたことは変わらない。是非三菱一号館の周囲をぐるりとまわって、探してみてほしい。なんの変哲もなかったオフィス街の輝きが違って見えてくることだろう。
ちなみに、こうした歴史的な情景を再現しているエリアでは「ガス燈に見える電球」も存在する。形が炎のようなので、見間違えやすい。そんななかからガス燈を見分ける方法は、ずばり炎の「ゆらぎ」である。「マントル」という素材が燃えているため裸火ではない(一部「赤火灯」と呼ばれる裸火のガス燈もある)のだが、やはり炎独特の動きが見られる。じっと見つめていると、ふと「ふわっ」と揺れ動く瞬間があるのだ。綺麗な灯りを見つけたときは、ガス燈かどうかを見極めるためにじっと見つめてみてほしい。
美しいガス燈写真、最後の一枚は恵比寿ガーデンプレイスだ。ドラマ『花より男子』での「恵比寿ガーデンプレイス、時計広場、一時」という台詞で初めてこの場所を知り、お洒落なデートスポットだと憧れた筆者でもある。
しかしここでデートをするならば、昼ではなく夜にしたほうがポイントアップ間違いなしだろう。なぜなら、こんなにも美しいガス燈が見られるのだから。「綺麗」とはしゃぐ彼女に「これ、ガス燈なんだぜ」と一言漏らしてみましょう。二人の仲はぐっと縮まる……かもしれない。
ちなみにこのガス燈は、記事中の他のガス燈と見比べると分かるとおり、ガラス面が角ばっておらず円になっている。方形のほうが掃除をしやすいという理由もあり、円形のガス燈はなかなか珍しいのだ。筆者はこんなポイントをパートナーに自慢げに語ってみたことがあるが「もういいよ」と一蹴されてしまった。何事も、熱くなりすぎにはお気をつけて。
「ガス燈」をもっと身近に感じよう
いかがだっただろうか。すこしでもガス燈に興味をもっていただけたら大変うれしい。
全国の代表的なガス燈所在地の参考としては、一般社団法人日本ガス協会さんの「ガス燈のある街」がまずはおすすめである。また、もっとガス燈の歴史や仕組みを詳しく知りたいという方は、東京ガスさんが小平市に所有している「GAS MUSEUM」なる施設がとてもおすすめ。こちらには「ガス灯館」なる施設まであり、まさにガス燈で埋め尽くされた空間が用意されている。
この記事を読んでいただいた皆様がガス燈のファンになってくれるように願うばかりである。そうしてこの美しい情景を写真に収める人が増えに増えて、インスタグラムのトップワードに「ガス燈」という文字が躍る日が来ることを筆者は夢みている。
以上