【エッセイ】生命を育む太陽のエネルギー/生命を脅かす人工のエネルギー(環境ライター)

●最初の生命である単細胞生物から我々まで、生命は受け継がれてきた。
●この偉大な生命は、太陽のエネルギーの力によって、エントロピー増大の法則に反する現象として誕生した。
●太陽のエネルギーは強大だが、地球に生命を誕生させ、環境を維持して育んできた。
●しかし、人類は人工のエネルギーに仕事をさせることを知り、それを酷使してきた結果、地球上の環境はバランスを崩しつつある。深刻なのは温暖化である。
●放っておけば、最悪の場合、人類の滅亡に向かいかねない。
●取り組みは始まってはいるが、遅々として進まず、決めてもいない。
●多くの人が忘れていることを思い起こして、今できることをやりながら考えていけば、危機を避けられるかもしれない。

スマホは、電気がなければ使えません。コンビニの商品は、エネルギーがなければ作れませんし、配送もされません。我々の衣食住、活動のすべてにエネルギーが使われています。そのエネルギーが、かけがえのない地球の環境を汚し、深刻な事態になりかねない温暖化を引き起こしつつあります。
エネルギーは、誰かが使っているのではありません。一人一人が使っているのです。同様にして、環境汚染も誰かが引き起こしているのではありません。一人一人が引き起こしているのです。

エネルギーなしでは、もはや人間は生きていくことができません。しかし、そのエネルギーが人類の寿命を縮めようとしているのです。このジレンマの中で我々は、どのようにして生きていけば良いのでしょうか。皆で考えなければならないときが来ているのです。

30億年受け継がれてきた生命

67a7235228b02b8f360cd4dcf6061647_m

日本人の祖先は、地続きだった樺太を通って北から来た狩猟民族と、海を渡って南から来た農耕民族だと言われています。11万年前の地層で、人がいた痕跡が見つかっているそうですので、これ以前に来たのでしょうか。

現生人類の祖先は、200~300万年前のアフリカに出現したホモサピエンスと言われています。長い間に、人類はアフリカから日本に渡ったのでしょうか。では、その前は?原人、猿人、哺乳類、両生類、魚類、藻類……そして30億年以上前の最初の生命、単細胞生物に行きつきます。小学校で習ったことですが、単細胞生物から我々まで、脈々と生命が引き継がれてきたことを改めて考えると、つくづく生命の偉大さを感じずにはいられません。

聖書の創世記冒頭には、神が光、水、植物、動物と順に創造し、6日目に人(アダムとイブ)を作り、7日目に休んだ、と記述されています。2500年程前に書かれたとされるこの記述は、進化論と通じるところがあり、当時の人間の想像力にも感嘆します。

生命誕生の力、強大だが優しい太陽のエネルギー

2ddadf8e527d33cd63bce8fc74fdcbf3_m

生命の誕生にはいくつかの説がありますが、解明された訳ではありません。神が作ったという説は置いておくとして、もし解明できれば、人間が生命を作ることができるかもしれませんが、多分それは永遠に不可能でしょう。なぜなら、人間が考えつかない、無数の神秘的と言える生命の誕生に必要な条件が、地球上に同時にあったと考えるからです。そうであれば、人間には解明不可能ですし、地球外に生命が存在する確率も限りなくゼロに近いはずです。

生命誕生に必要な条件のうち、最も重要なのが、太陽の存在でしょう。自然現象はエントロピー増大の方向(乱雑化あるいは安定化の方向)へ向かう、という「エントロピー増大の法則」があります。一方で生命の誕生は、この法則に反してエントロピーを減らす現象でもあります。このエントロピーを減少するための力が、太陽のエネルギーです。ちなみに、太陽のエネルギーを使っているので、宇宙全体ではちゃんとエントロピーは法則通りに増加しています。

核融合により発生する太陽のエネルギーは巨大で強力です。そのうち地球に届くのは僅か20億分の1ですが、それでも現在人間が使うエネルギーの1万倍以上になります。このように強大な太陽が、生命を生む力となり、その後も分身である地球を優しく見守って、生命を育み、水と大気を循環させて、生命の維持に必要な環境を整えてくれています。
地球に届いた太陽のエネルギーの余剰分は、蓄積すれば温度がどんどん上昇してしまいます。しかし、余分な熱は宇宙に放出され、絶妙にバランスして環境が保たれてきたのです。このバランスが、今、崩されようとしています。

人工エネルギーは禁断の木の実なのか

dd28ba106cc7a0ab81bf5c616c3da7f3_m

人類は長い間、太陽を畏敬し、太陽に育まれた自然と共生して暮らしてきました。人類が登場してからの200~300万年から見れば、ごく最近の300年程前、人間は地球内から掘り出したエネルギー(以下、人工のエネルギー)である、石炭、石油に仕事をさせることを知ってしまいました。一度その味を知ってしまうと、もう留まることはありません。まさに禁断の木の実であると言えるでしょう。

以来、人間は人工のエネルギーを酷使して、大量にモノを作り、食物を増産し、繁栄して、地球史上未曽有と言えるほど繁殖してきました。人口は300年の間に10倍程になり、まだ増え続けています。酷使された人工のエネルギーは、太陽のエネルギーと違って性質が悪く、人間はしっぺ返しを受けています。環境破壊、環境汚染……。そして深刻な状況にあるのが、大気中の炭酸ガス濃度増加によって地球の温度バランスが崩れ、地球を巡る大気と水の循環にも影響する温暖化です。

このまま放っておくと地球はどうなってしまうのでしょうか。気温が上昇して異常気象が増え、氷河、北極、南極の氷が解けて海水面が上昇して陸地が減り、食物生産が減る。一方で人口は増え、同時に飢餓、紛争、疫病も増え、人類は滅亡に向かっていく――。これは最悪のシナリオです。
某国の大統領のように、温暖化自体を否定する人達がいますが、すでに異常気象が始まっている現在、無策で良いとは思えません。地球には寿命があると言われており、「どうせいずれ滅亡するなら、今が良ければいいじゃないか」という考えもあるかもしれませんが、自ら寿命を早めることもないでしょう。

遅々として進まない対策

ff8cf0066f4bf81953f4d1e096261116_m

最悪のシナリオを防ぐための取り組みは、一応は始まってはいます。エネルギー業界に身を置いていた私も、その一端を担いましたが、残念ながらもどかしい思いをしたまま引退しました。世界各国の利害が対立して、対策は遅々として進んでいません。経済発展を維持しながら、エネルギー使用を減らすか、莫大なコストをかけるかしなければならないのですから、利害が対立するのも無理はありません。

温暖化の原因と言われる炭酸ガスを回収して地中に封じ込める技術は、それなりに進んでいます。しかし、これも相当なエネルギーとコストが必要であり、適地選定の困難さや反対運動もあって進展していません。
そして、炭酸ガスを排出しない、太陽光発電や風力発電への期待があります。しかし、これらで問題を解決できるほどの量を確保するのは至難の業でしょう。問題が解決するまで、炭酸ガスを排出しない原子力を活用するのは有効だと思いますが、これもやはり人工のエネルギーです。石炭、石油とは別の性質の悪さがあり、反対意見も多いです。

では、どうすればいいのでしょう。一番簡単な方法は、エネルギーを使うことを止めて昔に戻ることです。自然に囲まれ、馬車に揺られ、ランプの明かりで本を読む――。いいじゃないですか。しかし、誰も賛成はしないでしょう。そして、仮に賛成が得られたとしても、現実にそれは不可能です。エネルギーなしでは、現在の世界人口70億人はとても養えないからです。
せめて、エネルギー使用を2割か3割減らせれば、状況はかなり改善されますが、そのために強いられる我慢はおそらく誰もが受け入れられないでしょう。

多くの人が忘れかけていること

人間の日常生活は、人工のエネルギーなしでは成り立たなくなっています。しかし、我々はその存在をいちいち意識しなくなっています。そして、多くの人が人工のエネルギーに関して忘れかけていることがあります。

・地球にあるエネルギーは有限である。
・使うエネルギーの何倍かの一次エネルギーがいる。
→電気は2~3倍、車などの動力は3~5倍。
・人工のエネルギーを使うためにも、大量のエネルギーがいる。
→掘削、運搬、精製、エネルギー変換設備・利用機器の製造など。
・人工のエネルギーを使うことには、危険が伴う。
→交通事故の死亡者は、世界中で125万人(2013年)。
・人工のエネルギーに頼ってきた結果、人類は退化しつつある?
→これは私の勝手な心配です。

「だからどうしろと言うんだ」と言われそうですが、忘れかけていたことを思い起こして、今できることをやりながら考えていけば、その積み重ねがいずれ起こりうる危機を救うことに繋がるのではないか――。今はそうとしか言えません。

この記事を書いた人

【エッセイ】生命を育む太陽のエネルギー/生命を脅かす人工のエネルギー(環境ライター)

周 満生

ライター

東京出身。エネルギー業界に40年。エネルギー・環境問題を、宇宙、地球、自然、人間の行動、様々な角度から見ていきたいと思っています。
趣味は、クラシック音楽。聞くだけでなく、楽譜を集めて、パソコンでいろいろ遊んでいます。これもご紹介できれば。
神奈川県の海に近いところ在住。YOSCAのライター新人(年令はともかく)です。

このライターに記事の執筆を相談したい

関連記事