プロゲーマーを目指した私が痛感した「eスポーツ」の世界の過酷さ

●ゲームでお金を稼ぐ華々しいイメージの「プロゲーマー」だが、その競争は過酷である。
●プロゲーマーとして活躍するには、経験と若さのどちらも必要。
●若いうちに経験を積むために、長時間ゲームの練習をする必要がある。
●ゲームだけでなく肉体的なトレーニングや食事管理も重要。
●それだけ努力を重ねても、ゲームが更新されることで積み上げてきたものが水泡に帰すことも。

対戦型のゲームを競技として扱う「eスポーツ」。そのプロ選手である「プロゲーマー」は、一見ゲームをするだけでお金を稼げるという夢のような職業です。しかし、華々しいイメージとは裏腹に、プロゲーマーたちは生き残りを懸けて、日々必死に競争を続けています。毎日長時間ゲームを練習するのはもちろん、ゲームのために肉体的なトレーニングや食事管理までも行う――。彼ら/彼女らのストイックな生活とeスポーツの世界の過酷さを、数年前にとあるゲームでプロを目指していた筆者が自らの知見を交えてご紹介します。

経験と若さのどちらも必要な「プロゲーマー」という職業

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プロゲーマーとして活躍するためには、豊富な経験と若さを併せ持っている必要があります。

eスポーツは他のスポーツと違い、選手の生まれもった体格や身体能力で優劣がつくことはありません。重要なのは「コントローラーやパソコンのマウスとキーボードを扱う両手の動き」、そして「頭脳」だけです。そのため、どんな人でも同じ土俵に立つことができるのですが、この点がeスポーツの一番シビアな部分だともいえます。両手だけを使うという同じ条件で競い合うため、将棋のように「扱える戦略」や「積み重ねてきた経験」が多いほうが圧倒的に有利になるのです。

にもかかわらず、ベテランになっても活躍し続けているプロゲーマーはあまり多くありません。勝敗を決めるには、経験から得られる知識だけではなく、反射神経や手で細かい操作を行う能力も重要になってくるからです。これらは年齢とともに衰えていくので、プロゲーマーの選手寿命は他競技のプロスポーツ選手と比べても短いとされています。第一線で活躍できるのは、遅くても20代後半までといわれるほどです。

「ゲームをするだけなのに年齢が関係あるの?」と思われる方もいらっしゃるかもしれません。しかし、プロゲーマー同士の対戦では、ボタンを押すまでのコンマ1秒単位のごくわずかな差でも勝負が決まってしまいます。もちろん経験でカバーできる部分もありますが、それ以上に若さがもたらす反応速度が与える影響は大きいのです。実際に選手の平均年齢を見ても、メジャーリーグが約29歳なのに対して、『League of Legends』というゲームのアメリカリーグでは22.3歳と、かなり低い数字になっています(2018年10月現在)。

肉体的なトレーニングや食事管理も重要

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若いうちに経験を積むためには、毎日長時間ゲームを練習しなくてはなりません。しかし、肉体的なトレーニングや食事管理も同じくらい重要です。肉体的なトレーニングといっても、なにも力強くボタンを押すために指立て伏せをするわけではありません。ゲームの練習の効率を高めるために、ウェイトトレーニングや有酸素運動で体を鍛えるのです。

集中してゲームに打ち込んでいると、だんだん頭だけでなく体まで疲れてきます。筆者がプロを目指して本格的に練習していたときは、始めてから5時間も経つと、ぐったりしてしばらくの間立ち上がることすらままならない状態になっていました。椅子に座って手を動かしているだけでも、まるで長距離を走ったあとのような疲労感に襲われるのです。そのときまでは思いも寄りませんでしたが、本気でプロを目指すのなら体力も必要だということを思い知らされました。

プロゲーマーたちの間で長時間練習することは、もはや当たり前になっています。なかには、毎日10時間以上も練習をこなしていると公言する選手さえいます。その上で周りのライバルに差をつけるためには、肉体的なトレーニングといったゲーム以外の部分に力を入れて、練習の質を高めることが重要であるといえるでしょう。実際に、国内外の多くの選手たちがジム通いを習慣として取り入れています。

また同様に、日々の食事管理も欠かすことができない要素です。健康のために栄養バランスに気を配るのはもちろん、集中力を維持するために練習前と練習中には一切食事をしないというルールを設けている場合もあります。

ゲームの更新でそれまでの努力が水の泡になることも

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過酷なeスポーツの世界で生き残るために、プロゲーマーたちは並々ならぬ努力をする必要があることをご紹介してきました。しかし、そんな努力によって積み上げてきたものが、ゲームの更新によって一瞬で水の泡になってしまうこともあります。

多くの対戦型ゲームでは、定期的に新しい要素の追加やゲームバランスの調整が行われています。趣味として遊んでいるならともかく、プロゲーマーにとってこれらの更新はまさに悪夢です。他のスポーツで例えるなら、ある日突然サッカーにスリーポイントシュートが導入されたり、野球で盗塁が禁止されたりするようなもの。盗塁が売りだった選手は、その日から打撃や守備の技術を急いで磨く必要に迫られるのです。

変化に柔軟に対応して活躍を続ける選手がいる一方で、更新をきっかけに引退に追い込まれる選手も少なくありません。ゲームの更新は、競技そのものが変化するという、プロゲーマー特有の懸念材料です。

プロゲーマーの過酷さを知ればeスポーツへの見方が変わる

「ゲームでお金を稼いでいる」という部分が注目されがちなプロゲーマーという職業ですが、彼ら/彼女らは過酷な競争環境に身を置いているアスリートでもあります。この記事を通してストイックな実態を知ることで、プロゲーマーやeスポーツを以前より少しでも魅力的に感じていただければ幸いです。

この記事を書いた人

プロゲーマーを目指した私が痛感した「eスポーツ」の世界の過酷さ

堀川 秋

ライター

千葉県出身、東京都在住。
フリーランスのライター。eスポーツ、経済、ライフハックが得意分野。
幼いころからゲームに触れつづけ、ゲームが原因で引きこもり、その後、同じくゲームが原因で社会復帰を果たす。
一時期プロゲーマーを目指して挫折した経験あり。それでもいまなお趣味はゲーム。

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