新・福岡観光のススメ。「柔らかうどん」を知ることで福岡をもっと身近に!

●とんこつラーメンやもつ鍋といったイメージが強い福岡だが、実は地元ではうどんが好まれていることは意外と知られていない。
●とんこつラーメンだけではなく、うどん発祥の地としても知られる福岡。老舗のうどん屋さんも多く、中でも『かろのうどん』の「ごぼ天うどん」は福岡うどんの源流となっている。
●『かろのうどん』の「ごぼ天うどん」の特徴は、魚介出汁のスープに柔らかなうどん麺、そしてその上に乗るシャキシャキのごぼうの天ぷらだ。この黄金の組み合わせは県内のうどん屋さんに広く影響を与えており、地元のチェーン店でも看板メニューになっている。
●「ごぼ天うどん」が一杯400円程度というリーズナブルさと店内のアットホームな雰囲気を武器に『ウエスト』『資さんうどん』『牧のうどん』の三大チェーンが広く展開している。サラリーマンや家族連れがうどん屋さんを憩いの場として活用しているという意外な一面も。
●『ウエスト』は夕方5時以降はリーズナブルな居酒屋としても営業している。うどんと一緒に他の福岡名物を堪能することもできる。
●うどん屋さんで飲むという福岡スタイルは、今後の福岡観光の裏目玉としてオススメしたい。

とんこつラーメンやもつ鍋、辛子明太子など……。福岡県出身の私も、地元の名物を聞かれたときには大抵こう答える。これはイメージの呪縛とも言えよう。

確かにこれらの食べ物は諸手を挙げてオススメできる。しかし、どちらかといえば観光客の一見さん向けだ。ハズレが少ないからこその選択肢でもある。実際に好んで食べるのは水炊きや辛子高菜だったりするのだが、それだとインパクトが薄いかなどと考えてしまうところが、内と外とを使い分ける愛想のいい福岡県民らしさ。そして、何を隠そうラーメンよりもうどんの方が好きという福岡県民も少なくない。私もその一人である。

当記事では、そんな福岡のうどん事情についてお伝えしたいと思う。

実はうどんの街、福岡

福岡といえばとんこつラーメン発祥の地として有名だが、最近ではうどん発祥の地としても知られ始めている(諸説あり)。福岡県のうどん屋さんには老舗も多く、中でも『かろのうどん』はここのうどんを食べるために県外からわざわざ足を運ぶ人が出るほどだ。福岡市博多区にあるその店はその名の通り「かろ(角)」のうどん屋さんで、訪れるお客さんがなるほどと膝を打つのが店の売りでもある。

そんな『かろのうどん』の看板メニューが「ごぼ天うどん」だ。福岡うどんの源流と言っていいだろう。昆布などの魚介からとった出汁に薄口醤油がほんのり色づく透き通ったコクのあるスープ。ツルツルとした表面にお餅のようにふわふわとした柔らか食感のうどん麺。そして、そんな優しい丸みのあるうどんにアクセントを加えるのがシャキシャキッと仕上がった短冊切りされたごぼうの天ぷら。
特にこの「ごぼ天」は福岡独自のもののようで、私も東京でなかなか同じものにお目にかかれず、ついつい故郷が懐かしくなってしまう。このふわふわとシャキシャキを交互に楽しむのが福岡流。コシのある讃岐うどんも美味しいけれど、それはそれ。この地ではまた別の進化を遂げているのだ。

うどんの大手三大チェーンがひしめき合う福岡

福岡県人のうどん好きに一役買っているのが、地元のうどんチェーン店の存在だ。有名どころは『ウエスト』『資さんうどん』『牧のうどん』の三大チェーン。先述した魚介出汁のスープに柔らか麺、シャキシャキ食感の「ごぼ天うどん」が看板メニューで、その価格は一杯400円程度。ワンコインで食べられるという気安さも手伝ってか、福岡うどんといえば、という存在になっている。
近年、福岡にも讃岐うどんチェーンという黒船が進出してはいるのだが、未だその牙城を崩せてはいない。それもそのはず、福岡県人にとってコシのあるうどんは「たまに」でいいのだ。残念ながら「いつも(福岡)のうどん」の代わりにはならないのである。

面白いのがこの三大チェーン、確かにライバル関係にはあるものの、日頃から競合店として火花を散らし合っているのかといえばそうでもない。あくまで地域に根付いた展開を主とし、顧客第一をモットーに住み分けしている点が地元民に愛される理由だ。
まずは最大勢力である『ウエスト』。こちらは福岡市を中心に福岡県全域で出店している。うどんといえばウエスト、そう語る福岡県人も少なくないだろう。
次に、北九州の雄『資さんうどん』だ。北九州市内で知らぬ者はいないだろう。豊富かつオリジナリティのあるメニューを武器に、関門海峡を渡って山口県下関市にまで出店している。本州との玄関口である新北九州空港を押さえているのも大きい。
そして最後は、糸島市から国道沿いに佐賀県まで進出している『牧のうどん』だ。先の二店と比べれば店舗数は少ないものの、根強いファンが多いことで有名だ。増える「魔法のうどん」としてメディアに取り上げられることも多い。

このように、チェーン店でありながらも地域性が強く、馴染みのチェーン店がどこかで出身がおおよそわかるという点は、福岡ならではのうどん事情であると言えるだろう。

福岡ではうどん屋さんが人々の憩いの場に

福岡のうどん事情として特筆すべきは、大抵の人に「馴染みのチェーン店」があるということだ。子供の頃から親に連れられてうどん屋さんに行く……これが福岡では当たり前で、学生になると学校帰りに立ち寄り、働き始めるとお昼や夜ご飯にと、世代は違えどその生活とともにあるのが福岡のうどん屋さんなのである。それは老若男女関係なく受ける幅広いメニューという企業努力もあるが、それに加えてお店の敷居の低さによるところも大きい。
フロアで働く店員は地元のパートのおばさま方が多く、店内のアットホームな雰囲気に一役買っている。そのせいか、お昼時になるとサラリーマンやトラックの運転手がホッと一息つきにきているのをよく見かける。加えて、騒ぐ子供がいると肩身の狭い思いをすることもある昨今、そんな子供たちをうまくいなすことができる店員さんがいるのは本当に心強い。周りを気にしながらいそいそと食べずに済む大らかなうどん屋さんの存在はとても貴重なのだ。

そもそも福岡では、ラーメンもうどんも共に「商人が時間をかけずに済ませるための食事」として広まったとされている。その中でラーメンは固めでもとにかくすぐに食べられるように細麺へ、一方でうどんは一気に平らげても胃に優しいよう柔らか麺へと対極的な方向に進んでいったのだろう。
福岡のとんこつラーメン屋さんには「はりがね」「粉落とし」といった食事を度外視した「男らしさ」を見せるためだけの固麺がある。対してうどん屋さんには、ただただ優しく迎えてくれる幅広い品ぞろえがあるのだ。ラーメン屋さんが父とすれば、うどん屋さんは母。あくまで個人的な解釈ではあるが、納得いく人も多いのではないか。

ちなみに私の行きつけは『資さんうどん』なのだが、そのメニューは独特だ。私の一押し「肉ごぼ天うどん」を筆頭に、豊富な種類のうどんや丼ものにとどまらず、かしわおにぎりや山菜ジャンボいなりなどの充実のサイドメニュー、果てはおでんやぼた餅まで年中味わうことができる。揚げ玉やネギ、とろろ昆布までが無料で入れ放題で至れり尽くせりとなっている。美味しいうどんに話は弾み、ついつい頼むメニューも追加してしまう、そんなみんなの憩いの場として長年愛され続けているのだ。

福岡を堪能するならうどん屋さんがオススメ

なるほど、確かに福岡うどんは食べてみたい。けれどせっかく福岡にまで行ってうどんだけ、というのもなぁ……と嘆くことなかれ。そんなときにオススメするのが『ウエスト』だ。
実はこのウエスト、一部の店舗では夕方5時以降になると居酒屋メニューがずらりと並ぶ。入り口には立て看板が置かれ様変わり、その名も『居酒屋ウエスト』。福岡ではうどん屋さんで飲むのが割と普通のことなのだ。
居酒屋メニューは200円・300円・400円の3つのカテゴリーに分けられており、なんともリーズナブル。その上、福岡県人の大好物である鶏肉を使った料理が豊富で、他にも水炊きやもつ鍋までそろい、福岡てんこ盛りという状況だ。

旅行に行くとついつい財布の紐が緩んで贅沢をしてしまう、そんな経験をしたことある方も多いだろう。そんなときには、このお店が優しく迎えてくれる。昼はうどん屋、夜は居酒屋、そんなちょっと変わったお店での経験は土産話としてもうってつけだ。関東にも数店舗進出しているようだが、まだまだ知名度は低く今なら情報通としても自慢ができる。今後の福岡観光の裏目玉としてうどん屋さんは要注目。

こんな福岡も「たまに」はどうだろう?

この記事を書いた人

新・福岡観光のススメ。「柔らかうどん」を知ることで福岡をもっと身近に!

佐藤秀文

ライター

福岡県出身、東京都在住。
エディトリアルデザイナーや記者の経験を経て、現在はフリーライターに。音楽やスポーツからグルメに半導体まで、興味を持った分野ならなんでもこなす雑食ライター。趣味はサッカー、最近は観戦専門。鹿島アントラーズ及びジーコの熱狂的なサポーターの一面あり。作家・北村薫先生の美しい日本語を見習いたいと日夜努力しております。

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