なぜ「食前・食間」が推奨されるのか。薬剤師が語る漢方薬との正しい付き合い方

●漢方薬は日本で古くからあるお薬のひとつです。
●漢方薬は現代の医学とは少し異なった視点でカラダを診る東洋医学が起源となっているお薬であるため、現代では少しなじみがない部分もあります。
● 漢方薬を現代の考え方で選んだり、飲んだりしても症状の緩和を感じられないと思う方もいます。
●現代の西洋医学と東洋医学の違いや東洋医学の考えを少し知ることで漢方薬がどのようなものなのか、また自分のカラダにはどんな漢方薬がなじむのかを探るきっかけになります。
●漢方薬を単なるお薬として飲むのではなく、飲むポイントや工夫もお伝えします。

病院の処方でもドラッグストアの店頭でもよく目にする漢方薬。自然のものというイメージを持って使う方がいる反面、飲みづらい、あまり効いた感じがしないというイメージを持たれている方もいるのではないでしょうか。
漢方薬の起源は東洋医学にあり、これは現代の医療の主流である西洋医学とカラダを診る視点が異なっています。そのため、漢方薬を西洋医学の視点で選んでもその力を十分に発揮できないこともあります。とはいえ、漢方薬を使うために東洋医学をイチから理解するのはとても大変でしょう。
そこで当記事では、薬剤師の視点から東洋医学の考え方や漢方薬の上手な摂り方(飲み方)を解説していきたいと思います。

漢方薬の基礎知識

日本人向けに進化してきた漢方薬

漢方薬の原料は生薬と呼ばれるものです。生薬は自然界にある植物や鉱物を乾燥させたもので、これを数種類混ぜたものが漢方薬です。起源は中国から伝来した「中医学」にありますが、その後長い年月を経て日本の風土や日本人の体質に合わせて発展したのが今の漢方薬です。つまり、私たちが使っている漢方薬は長い年月をかけて日本人に合うように進化してきたお薬なのです。

漢方薬と西洋薬の違い

漢方薬は、東洋医学における中医学の考えが基本となっています。東洋医学ではカラダの不調の原因となるものが何かを考えて解消するところに着目します。つまり、原因を取り除くためには時間が必要な場合もあり、すぐに効果を感じられないこともあるでしょう。
漢方薬の最大の利点は、カラダの不調の原因となるものを解消するところにあります。これが「体質の改善」につながることもあります。

皆さんは「未病」という言葉をご存知でしょうか。未病とは、病気というほどの症状ではないが、体調が優れないと感じる状態のことを指します。この状態を改善することも東洋医学や漢方薬の治療の範囲です。
一方、現代の医薬品の多くは西洋医学で効果などが証明されたものです。西洋医学は「いま現在の症状を改善する」ことを目的としているものがほとんどです。当然ながら即効性も期待されますので、それに対応した医薬品が多く使われています。

東洋医学や漢方薬独自の考え方

漢方薬を選ぶうえで重要なことは、自分の体質を知ることとされています。この体質を知るうえで必要な考え方を2つを紹介します。

【1】「気(き)・血(けつ)・水(すい)」の概念

東洋医学や漢方の世界では病気を把握するために「気・血・水」という3つの独自の概念を使って不調をとらえます。
気とはエネルギーを指し、カラダの機能を維持したり新陳代謝などをスムーズに行ったりします。血と水はカラダの構造を維持するためのもので、血は血液と考え、栄養を運び老廃物を回収、排泄するためのものです。水はカラダの水分を指し、カラダの水分量や潤いなどを指します。
この「気・血・水」が互いに協力することで、カラダの恒常性(カラダを正常な状態に保つこと)を維持するという考えが元にあります。どの部分が弱くなっているのかを知りそれを補てんしたり、強すぎる部分をおさえたりするという考えで不調の症状を改善に向けていきます。

【2】「陰陽(いんよう)」の概念

漢方の世界では「陰陽」という考えがあります。これは、カラダが冷たい状態なのか熱い状態なのかを指しています。この陰陽を決定してカラダを診ることで、治療を進めるなかで温めるほうが良いのか冷ますほうが良いのかを判断します。
一見すると簡単な分類のように思えますが、意外と勘違いされている部分でもあります。「私は冷え性だから」「寒いのが苦手だから」など、自分の感覚だけで陰陽は決まりません。陰陽を決める要素は顔や舌の色、手足の温感、排便や排尿の状態などがあり、それを総合して決められます。

複数の判断基準から薬を選択

漢方を選ぶ際にはこれらのような独自の判断基準があり、そのうえで過剰な(たまっている)ものを取り去るか不足しているものを補うかを決定し、治療を進めていきます。判断基準はこの他にもいくつかあり、その組み合わせによってそのときの症状やカラダにあった漢方薬が決まります。つまり、同じ症状でも異なった漢方薬を使うケースや、異なる症状でも同じ漢方薬を使うケースは決して珍しくないのです。

漢方薬の上手な飲み方

自分の体質や症状にあった漢方薬が見つかりましたら、次は飲み方に関する知識を身に着けましょう。ただ単に飲むのではなく、飲み方にも工夫を加えて欲しいことがあります。
漢方薬はもともとは数種類の生薬を煎じてお茶にして飲んでいたものです。しかし、煎じたものは味や匂いが独特で飲みづらさがあるので、続けるには抵抗がある方もいることでしょう。それらの悩みを解決したのが、錠剤や顆粒などといった今の漢方薬です。この進化をうまく利用しつつも、昔の漢方薬の考えを残した飲み方を解説します。

水もしくは白湯で飲む

水もしくは白湯で飲むようにしましょう。これは漢方薬に限らず、西洋薬でも同じですが、他の飲料(ミネラルウォーターも含む)で飲んだ場合にその飲料の成分によっては効果に影響が出てしまう可能性があるためです。

温度は(原則)冷たくても温かくてもOK

原則として水の温度は、冷たくても温かくても問題ありません。しかしながら、飲もうとしている漢方薬がカラダを温めるものであれば白湯が、カラダの熱を取るものであれば水が良いでしょう。
例えば、葛根湯などはカラダを温めるものなので白湯、黄連解毒湯などはカラダの熱を取る働きがあるので水が望ましいです。

まず水を口に含み、その上のに顆粒を乗せる

水または白湯を口に含み、その上に顆粒を乗せるように口の中に落として飲み込みます。その後にまた水分を飲むようにしてください。この方法が最も匂いや味が感じにくい飲み方です。
オブラートで包んで飲むのも良い方法ですが、かさが増えてのどを通りづらくなったり、オブラートがのどに貼り付いてしまったりすることがあります。どちらが最善かは個人差がありますが、できるだけスムーズにのどを通る方法を考えると、オブラートに包まないほうがおすすめです。

飲むタイミングは食前もしくは食間

多くの漢方薬は、食前もしくは食間(食後2時間半を経過したくらいのタイミング)に飲むのが理想的としています。理由は漢方成分の吸収にあり、空腹時では効果を期待する成分の吸収を高めるのと同時に、満腹時に吸収されすぎてしまう成分の吸収をおさえる意味も含まれています。
しかしながら、食前や食間では飲み忘れてしまうという場合には食後でもかまいません。これは漢方薬は継続して飲み続けることでカラダの不調を改善していくことも大切な目的のひとつとされており、継続して飲むことが優先されるためです。また、漢方薬を空腹時に飲むと胃腸の不調を感じる場合は食後で様子を見るようにしましょう。

溶かして飲んでもOK

漢方薬はもともと煎じて飲むお薬です。その理由は、漢方薬は匂いや味も効果として考えられているためです。匂いや味に抵抗がないのであれば溶かして飲むのも良い方法です。特に「〇〇湯」という名前の漢方薬は一気に飲み込んでしまうよりも溶かしてゆっくり飲んだほうが良いと言われています。

漢方薬と正しい付き合おう

漢方薬は日本に古くからあるお薬で、日本の歴史とともに進化してきたものです。ただ、漢方薬は東洋医学が基礎になっているため、現代の西洋医学とは考え方や診るものがやや異なります。また、独特の匂いや味などで敬遠されることも少なくありません。
漢方薬は日本人とともに進化してきたものです。その起源となっている東洋医学や漢方薬の考えを少し知るだけでも、見方や付き合い方に少し変化が出てくるのではないでしょうか。

この記事を書いた人

なぜ「食前・食間」が推奨されるのか。薬剤師が語る漢方薬との正しい付き合い方

柳田 みき

薬剤師ライター

大阪府出身、在住。
病院や調剤薬局などの薬剤師の経験を活かし、接することが多い医薬品の上手な使い方やセルフメディケーションのためのアドバイスを中心に記事を書いています。
趣味はペット。保護犬を家族の一員として迎えて毎日のお世話を楽しんでいます。
まだまだ駆け出しですが、多くの患者さまに接してきた経験をもとに、難しい医療や医薬品のことをわかりやすく解説します。

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