「耳で見せる」音とフレーズの妙技。米津玄師の楽曲から探る現代版ヒット曲の法則

●一定の表拍フレーズに3拍目を裏拍にすることリズムにインパクトを与える。
●花火や時間、少年と少女、内面と外面などの対比させる構図を音とフレーズで作る。
●J-POPに求められるキャッチーなメロディを「3×2」の法則で作り上げる。
●最近の曲は、スローテンポでも裏拍を強調するなどして、リズミカルに仕上げてられている。また、速すぎないテンポにすることで「ついていける」という安心感を聴き手に与えられる。
●すべてを壊して曲を再構築するのではなく、従来の要素を生かしながら組み換えることで中身を一新できる。楽曲は「温故知新」で作ることが重要である。

米津玄師はスゴイ。YouTubeではいくつものMVが動画再生回数1億回を突破するなど、幅広い世代に爆発的な人気があるJ-POPのシンガーソングライター・プロデューサーだ。これだけヒットすると、嫉妬や揶揄のひとつも聞こえてきそうだが、周囲で否定的な言葉をあまり耳にしない。

ヒット曲を生み出すのは相当難しいといわれている世の中で、彼はなぜそんなに多くのヒットを飛ばせるのか?“飛び抜けて独創的”というイメージはそれほど強くない彼の作る楽曲には、何か法則があるのだろうか?

「商業音楽」は単なる音楽作品ではなく、さまざまな要素が複雑に絡み合う商品なのだ。この商品価値を高めるには複数の法則が存在する。ここでは米津玄師の2つの曲を例に、楽曲提供を行ってきた筆者が独断と偏見でヒット曲の法則を分析してみようと思う。

米津玄師の楽曲を分析してみる

1.DAOKO×米津玄師『打上花火』

2.米津玄師『LOSER』

最近は大胆なリズム転換や、変則的フレーズを取り入れる楽曲が多く、なかなか中年層リスナーなどはついていくのが大変である。それに比べると、米津玄師の楽曲は曲調の変化を含め、基本的に伝えたいリズムやフレーズはエンディングまでほぼキープされることが多い。

とはいえ、単調にならないように少しだけ挑戦的なフレーズを挿入してみたり、ポイントごとに表拍と裏拍をそれぞれ演奏するパートを作ってみたりといった、ギミックが取り入れられている。また音楽だけのイメージのみならず、音に映像を想像させるような流れを絡ませるなど、トータルバランスの優れた楽曲構成をしていくことが、リスナーを飽きさせない法則にもなるのだ。

どれだけ耳にしても飽きさせないリズムの工夫

1.『打上花火』

イントロのピアノフレーズ(0:03~)は最たる例だ。右手のアルペジオに対し、左手は1拍目のロングトーンの後、3拍目は裏拍を鳴らしている。3拍目の裏拍に関しては、Aメロ(0:24~)ではバスドラムが、サビ(1:03~)ではストリングスが1拍目は表拍に、3拍目は裏拍に、そして4拍目は奇数小節では裏拍に、偶数小節には表拍にそれぞれストリングスが挿入されることで、それぞれリズムをキープしている。いずれかの音が最後までキープすることで、リズムについていけないという感覚が薄まっていく。

2.『LOSER』

この曲は、ストリングスやSEが重なった後に始まるイントロフレーズ(0:11~)、そしてサビ(1:02~)のフレーズはエレキギターのパートが表拍リズムで刻んでいるが、3拍目は裏拍から八分句点音符でアコースティックギターとバスドラムでインパクトを与えている。リズムは一部分を除き、バスドラムが最後までキープしている。

まるで「耳で見る」!映像をはっきりと映し出すフレーズ

1.『打上花火』のストリングス

サビの部分(1:03~)でリズムキープとしても展開されるストリングスのフレーズは、歌詞の通り“パッと打ち上がる花火”をイメージさせている。シンセサイザーでこの使い方をするとストリングスが「本物っぽく」聴こえるので重宝するが、そこに「花火のように咲いては散る感触」が残るよう、美しく工夫してあるのが特に重要だ。

そして大サビ以降(2:41~)に表現されるロングトーンと、ワンボウスタッカートっぽいアルペジオが重ねられている。これにより「一瞬の花火と永続する時間」「主人公の少年と少女」などの対比させる構図が音でも表現されているのだ。音と映像のパッケージングを考える上で、最も顕著な例である。

2.『LOSER』

エレキギターがメインで鳴っているが、それぞれフレーズのリピートが多く、打ち込み的なアレンジになっている。イントロとサビでは負け犬の遠吠えなどの外面が、AメロからBメロにかけて刻むフレーズ(0:31~)では迷いなどの内面が表現されている。イントロやサビに入っているアコースティックギターのカッティングのインパクトが内面の主張を強調するなど、歌詞だけでなく楽曲でも内外の対比を組み合わせることが、J-POPではより重要だ。

J-POPの必要な要素と法則を外さないメロディ

J-POPのサビは「キャッチーで覚えやすいメロディ」が求められ、その結果、短いフレーズを2度3度と繰り返すメロディが必然的に増えていく。ヒットする曲の多くは、このリピートフレーズだ。前述した2曲に共通するのは「3×2」の法則。最初の4小節で3回フレーズをリピートし、次の4小節で2回リピートさせるとクドく聴こえないのだ。歌詞がわからない人でも、フレーズを繰り返しリズミカルに聴かせることによって、いつの間にか覚えさせることができる。スッと入ってくるメロディも重要だが、繰り返してリスナーの頭にこびりつかせることができればヒットにつながる。

1.『打上花火』

パッと光って咲いた 花火を見ていた
きっとまだ終わらない夏が
曖昧な心を 解かして繋いだ
この夜が続いて欲しかった

前半4小節は「パッと光っ……」「花火を」「きっとまだ」の3箇所が、後半4小節は「曖昧な」「解かして」の2箇所がほぼ同じフレーズ。

2.『LOSER』

アイムアルーザー どうせだったら遠吠えだっていいだろう
もう一回もう一回行こうぜ 僕らの声
アイムイアルーザー ずっと前から聞こえてた
いつかポケットに隠した声が

前半4小節は「アイムアルーザー」「どうせだったら」「遠吠えだって」の3箇所、後半4小節は「アイムアルーザー」「ずっと前から」の2箇所がほぼ同じフレーズ。

「ついていける」安心感を与えるBPM

『打上花火』BPM=96
『LOSER』BPM=121

2曲とも、BPM(Beats Per Minute、テンポのこと)が最近のヒット曲にしてはスローだ。だからといって、先述した3拍目の裏拍強調の効果により単調なリズムではないために「遅い曲」には聴こえない。また、このBPMにすることで40代や50代といった世代も曲のリズムに「ついていける」という安心感を得ることができ、それが拒絶されない要素になっているのだ。このテンポは特にJ-POPで見習うべき点であり、使えるネタである。

「壊さず生かして組み合わせる」温故知新の法則

米津玄師というアーティストを遡ってみると、彼の音楽性は「すべてを壊して再構築するタイプ」ではなく「従来の要素を生かしながら組み換えることで中身を一新するタイプ」であることがわかる。例えば『打上花火』で共演しているラッパーDAOKOだ。

『かけてあげる』

レコード会社などの戦略で、ラッパーDAOKOは若干イメージチェンジを図っているように感じた。米津玄師は、この戦略とDAOKOの双方の流れを「壊さず生かして組み合わせるプロデュース」によって、業界とDAOKOファンから高い評価を得ることに成功している。

良いメロディに良いアレンジを行えば素晴らしい曲になるのは当然だが、それでもYouTubeの再生回数を1億回以上にするほどのヒット作として認められるには、それ以上に既成の法則が組み込まれていなくてはならない。変則的なリズムや革新的なアレンジで驚かせるのも悪くないが、既成概念の組み合わせを少しだけだが絶妙に組み換えて、幅広い世代にウケる「温故知新」な楽曲を作ることもまた重要な法則なのだ。

この記事を書いた人

「耳で見せる」音とフレーズの妙技。米津玄師の楽曲から探る現代版ヒット曲の法則

川西航歩

ライター

兵庫県出身在住。
大学では主に労働経済学専攻。音楽、帽子などとにかくモノづくり好き。趣味が高じてそのまま職業に。他人と同じような、でも違うような絶妙な視点を日々模索中。趣味はF1や野球などスポーツ観戦と飛行機を眺めること、そしてやはり作ること。

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