ジョン・レノン。今のポップス・ロックシーンに多大な影響を及ぼした、ザ・ビートルズの元メンバーである。ザ・ビートルズがおよそ10年という短い期間でリリースした楽曲は200以上。つまり、数多くの名曲を驚くような速さで作っていたのである。
筆者である私が作曲を始めた大学2年生の頃。多くの作曲者同様、スランプとマンネリに悩まされていた。ビートルズのように沢山の曲を作りたいのに、ネタ切れなどの理由で1週間に1曲ほどしか作れなかった。この現状を打破するには、方法を変えなければならないと思ったのである。
そこで、ザ・ビートルズの中でも特に好きだったジョン・レノンに焦点を絞って、彼がどのように曲を作っているのかを調べた。インタビューや実際の曲を自分なりに分析することで、いくつかのジョン・レノンの作曲手法を手に入れることができた。その作曲手法を使うことによって、曲を作りのスピードを格段に上げることができたのである。
今回は、そのいくつかの作曲手法のうち、簡単に実践できる3つのテクニックについて紹介する。
【技法1】詩から曲を作る
ジョン・レノンは、歌詞の内容や韻に重きを置いていた。つまり、詩から先に曲を作ることがあったのである。この「詩先」という方法は、作曲の経験のある者にとっては当たり前のことであろう。
一般的に詩先で曲を作るとなると、音の高低や小節を気にしなければならない。一番と二番の文字数を揃えることが要求される。しかしここで紹介する詩先は、そういった類のものではない。つまり、音を気にしない詩先である。小節や音の運びはいったん端に寄せておき、自分の思う通りに書ききってしまうのである。
このような詩先のあり方は、ザ・ビートルズ時代のジョン・レノンの名曲『Across the Universe』や『All you need is love』のVerse部分に顕著に表れている。特に『All you need is love』は変拍子の曲として有名である。
ジョン・レノンは、正規の音楽教育を受けていなかったから意図的に変拍子を使ったとは考えられない。出来上がった歌詞にメロディをつけた結果、このような曲が出来上がったと言えるのである。
まずは音なんか気にせず、書きたい歌詞を思うままに書いてみて欲しい。その後にギターやピアノを使って適当なコードを弾きながら、その歌詞を歌ってみよう。
【技法2】逆から弾いてみる
ここでは、音から作る場合の手法について紹介する。作曲のスランプやマンネリは、音から先に作る手法の場合に多い。いわゆる「曲先」と言われる手法である。曲先のマンネリには、「逆から弾いてみる」ことが有効である。
ザ・ビートルズのラストアルバム『Abbey Road』に収録のジョン・レノンの曲『Because』は、まさに逆から弾いたことがアイディアの元になっている。
以下は『Because』を作ったきっかけについて、ジョン・レノンが語っているインタビューである。
ぼくは家のソファに寝そべって、ヨーコがピアノでベートーヴェンの『月光』を弾いているのを聴いていたんだよ。ぼくが不意に思いついて「今のコードをうしろから弾いてくれ」と頼んで弾いてもらい、そいつを中心にして「ビコーズ」を作ったんだ。
出典:ジョンとヨーコ ラスト・インタビュー(著デービッド・シェフ 訳:石田泰子 出版:集英社)
これはメロディだけでなく、コードにも使える優れた手法である。コードを例に挙げてみよう。「C-F-G7」という基本的なコード進行で試してみると「G7-F-C」という進行になる。これだけでも新しい響きが得られる。(雰囲気によってGコードのセブンスは無くしても良い)
☆スリーコードを逆から弾いてみる
・C-F-G7 → G7-F-C
・G7-F-C → G7-C-F
もう少し踏み込んで、元の進行を逆にした「G7-F-C」という進行の一部分だけを逆にしてみても良い。例えば、FとCを逆に並べて「G7-C-F」としてみるのである。ここまで変えてしまうと、メロディをつけるのに工夫が必要になる。
このような場合は、リズムの速さや、コードチェンジのタイミングを変えてみよう。そうすると、試行錯誤を繰り返しているうちに新しい曲が自然と出来上がってしまうのである。
他の例として、スリーコード以外の進行に手を加えたものも記載しておく。
☆スリーコード以外のコード進行を逆に弾く
・C-Am-Dm-G7 → G-Dm-Am-C
・さらに、G-Dm-Am-C → Am-Dm-G7-C
【技法3】不快な音を気にしない
3つ目の最後の手法は、「不快な音を気にしない」である。実は、ジョン・レノンの楽曲には不快であるはずのコードが多く含まれている。代表的なのは、ザ・ビートルズ時代の楽曲『I am the walrus』である。
どこがおかしいのか説明するため『I am the walrus』のVerseの部分と、その下にダイアトニックコードを記載した。
☆『I am the walrus』Verse1
・A-A/G-C-D-A/G-C-D-A
※ LITTLE BLACK SONGBOOK The Beatles(出版:Wise Publication)より抜粋
☆キーがAの場合のダイアトニックコード
・A-Bm-C#m-D-E-F#m-G#m7(♭5)
この曲はAコードから始まっているため、Aがキーだと思ってしまう。しかし実際には、基本的なコード進行であるダイアトニックコード以外の音をふんだんに使っているのである。こう説明すると、不協和音だらけのおかしな曲を連想するかもしれないが、そうではない。基本的なコード進行の枠から逸脱しても、曲として成り立っている。
もちろん、最初からジョン・レノンのようにコードを縦横無尽に操作することは難しい。まずは『I am the walrus』のように、ダイアトニックコードを全てメジャーコードに書き換えてしまおう。そして、書き換えたコードからコード進行を作ってみるのである。
☆Aのダイアトニックコードの書き換え
・A-B-C#-D-E-F#-G#
☆書き換えたダイアトニックコードから進行を作る
・A-B-E
・A-G#-C#-F#-E7
・A-D-B
など
このようなコード進行は、一言で言ってしまえば不快な音である。しかし、それを気にしないことが大切だ。不快なコード進行に対し、如何にしてメロディを乗せるかを試行錯誤するのである。その結果、変拍子になったり、時には面白いメロディが生まれたりする。
作曲は自由なものだ
今回挙げた作曲手法は、それぞれ単独でも十分な威力を発揮するが、それらを組み合わせることでさらに新たな音を作ることもできる。ジョン・レノンの曲を聴かなくても実践は可能だが、ここに上げられた曲を聴くことで、さらに理解が深まるであろう。
ジョン・レノンの例を見ても分かるように、作曲は難しいものではなく、楽しく自由なものである。是非、今回紹介した作曲手法を、自らの曲で気軽に実践してみて欲しい。