知ればもっと楽しめる!京都の暮らしを守る厄除け探訪のススメ

● 京都の伝統的な「京町家」は、目には見えない災いを避けるため、厄除けが施されている。
● 屋根の上には厄除けとして、鬼瓦や鍾馗(しょうき)が置かれており、厄が家に入らないよう見張っている。
● 玄関先には祇園祭で授与される厄除け粽(ちまき)がつるされ、魔除けをアピールしている。
● 災いの出入口である鬼門は石や植物で守られている。
● 厄除けは京町家だけでなく現代の住宅にも見られる。

京都の町を散策していて「京町家」を見かけると、京都らしさを感じますよね。京町家とは、瓦屋根で格子があり、低い二階と虫籠窓(むしこまど)がある伝統的な建物です。格子は光や風を通しながらも往来からの視線を遮るため、家の中は外からは見えません。

虫籠窓は二階の窓を指し、土と漆喰で塗り固めることで火災に強くなっています。虫籠窓も格子と同様、外を歩く人を直接見下ろさないよう配慮されています。住宅が密集した京都の町では、プライバシーを守って快適に暮らせるように考えられているのです。

この京町家には、目に見えない災いを避けるためにさまざまな工夫がされていることを、皆さんはご存じでしょうか。古くから、日本では怨霊や悪霊が災いの原因だとされ、恐れられてきました。

災いは「厄」や「疫病神」といわれ、京都では厄が家に入らないよう「厄除け」対策をします。そのため、京都の町で厄除けを探してみると、そこかしこで目にすることができるのです。学生時代に京都で暮らし、疫病神の研究をしていた筆者が、普段見逃してしまいがちな京町家の厄除けを紹介したいと思います。

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屋根の上から通りを見張る「魔除け」

京町家では、屋根の上に鋭い目つきの魔除けを置く習慣があります。そのひとつが、お寺の屋根の端でよく目にする「鬼瓦」です。鬼瓦は“悪をもって厄を寄せ付けない”と考えられ、奈良時代から寺院建築で使われていました。江戸時代には、火災対策として家の屋根に瓦が使われ、鬼瓦を端に置くことが流行したのです。今では鬼瓦を置く家は少なくなりましたが、竈(かまど)の上の「煙出し」という小さな屋根に、残っていることがあります。

もうひとつ、玄関の屋根の上でよく見られるのが、瓦製の人形「鍾馗(しょうき)」です。鍾馗は中国の唐代の伝承をもとにした神様で、魔除け効果があるといわれています。
江戸時代、ある人が鬼瓦を屋根に置いたところ、鬼の気が強すぎて向かいの家の人の調子が悪くなってしまいました。そこで、鬼瓦への厄除け対策として、鍾馗を置くようになったといわれています。

前述したとおり、現代では鬼瓦を置く家が少ないことから、鍾馗が屋根の上に置かれる厄除けのメインとなっています。この鍾馗は京都では「鍾馗さん」と親しみを込めて呼ばれており、京町家に限らず、現代家屋の屋根にも見られるものです。筆者が住んでいた住宅街でも、玄関の上の屋根に鍾馗を置いている家がありました。防犯カメラが不審者を見張るように、鬼瓦や鍾馗は通りから厄が入らないよう見張っているのです。

玄関は「護符」でしっかりガード

京都では、玄関先に護符の付いた「厄除け粽(ちまき)」をつるす家が多いです。粽とは、蒸したもち米や餅を笹や茅(ちがや)の葉で包んだもので、端午の節句の時期に食べられています。しかし、京都の厄除け粽は食べ物ではありません。魔除けを祈願して玄関につるすもので、祇園祭で授与されます。厄除け粽には、以下のようなエピソードがあります。

昔々、蘇民将来(そみんしょうらい)という貧しい男と、その弟の巨旦将来(こたんしょうらい)という裕福な男がいました。嵐の夜、疫神である牛頭天王(ごずてんのう)が兄弟の家を訪れ、宿を乞いました。弟の巨旦は断りましたが、兄の蘇民は快く牛頭天王を泊めてもてなします。

牛頭天王は一宿一飯の恩として、茅(ち)の輪の護符を腰に着けるよう蘇民に教えました。
再び牛頭天王が訪れた際、護符を腰に付けた蘇民の娘を除き、巨旦の一族は皆殺しにされたといいます。牛頭天王は以後、護符があれば疫病を免れると約束しました。

その故事にちなみ、牛頭天王を祀った八坂神社の祭礼である祇園祭では「蘇民将来之子孫也」と書かれた護符の付いた厄除け粽を授与するようになりました。

厄除け粽を玄関につるすことで、「うちは蘇民将来の子孫なので守られています」というアピールになります。警備会社のステッカーを玄関に貼ると防犯効果があるそうですが、厄除け粽もおそらく同様の厄除け効果があるのでしょう。警備会社のステッカーの隣に厄除け粽がつるしてあれば、怖いものなしですね。

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災いの侵入口の「鬼門」をシャットアウト

風水や家相では、北東を良くない方位として「鬼門」と呼びます。その昔、平安京に遷都した際に、鬼門を封じるために比叡山に延暦寺を造営しました。今でもトイレを北東に配置すると、風水的に良くないといわれています。鬼、つまり怨霊や災いは北東の鬼門から入ると考えられ、家を守るため人々は知恵を絞りました。そこで考え出されたのが、以下の方法です。

〈縁起の良い木を植える〉

京都では、敷地や建物の北東に南天や柊を植えている家をよく見かけます。どちらも赤い実を付ける植物なのは、朱色に魔除けと招福の効果があると考えられたからです。南天は「難転」と読みが同じで「難を転じて福とする」と縁起をかつぎ、柊は葉のギザギザが魔を祓うとして重宝されました。赤い実がない植物でも、ギザギザの葉や鋭い葉がある植物は邪気を祓うとされ、鬼門に置かれることがあります。

〈鬼門を清めて福を招く〉

石には霊力があり魔を祓い清めるといわれ、信仰の対象となることがありました。そのため、鬼門を四角く囲って砂利を敷いて清めたり、霊力が留まるようその上に石を置いたりすることで、鬼門除けになるとされています。これは、鬼門を清めて縁起の良い場所に変え、厄を寄せ付けないようにする方法です。他にも、砂利の上に縁起の良い木を植えたり、祠(ほこら)を建ててお地蔵や神様を祀ったりする家もあります。鬼門を清めて霊力のあるものを祀り、そのご利益で家を守ってもらうのです。

〈鬼門そのものをなくす〉

角が良くないのであれば、いっそ角をなくしてしまうという逆転の発想から「缺け(かけ)」といって北東の角を凹ませている家もあります。ずいぶん強引な気もしますが、京都御所や現代の建物の塀にも施されています。角がなければ鬼門とはならず、災いは家の中に侵入できないのです。

厄除けは暮らしの中に息づいている

家をしっかり守ろうと配置された厄除けは、まるで現代の防犯対策のように思えます。現代では防犯カメラや警備ステッカーを利用し、出入口を施錠して泥棒などの侵入者から家を守ります。同じく、京町家では屋根から魔除けが見張り、玄関先は護符が警備をアピールし、鬼門除けで侵入されやすい出入口を守っているのです。

ここで紹介した厄除けは、伝統的な京町家だけでなく現代の住宅にも見られます。鬼門除けのある家は減っていますが、鍾馗を屋根に置き、玄関先に厄除け粽をつるす家は少なくありません。町で京町家を見かけたら、趣のある建物を楽しみつつ、厄除けを探してみてはいかがでしょうか。今まで何気なく通り過ぎていた家も、もしかしたら厄除けだらけかもしれません。「こんな厄除けがあった!あんなのもあった!」と、京都の厄除けを楽しんでもらえたらと思います。

この記事を書いた人

知ればもっと楽しめる!京都の暮らしを守る厄除け探訪のススメ

猫背あきこ

ライター

大阪府出身、静岡県在住。
十数年暮らした京都から穏やかな気候を求め、静岡へ勢いよく移住。
子育てのかたわら、ライター業をはじめる。生活や料理、育児、ペットが得意ジャンル。
猫の行動観察や、野草やキノコについて図鑑で調べるのが趣味。

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