収入が伸び悩む時代に節税に努めたり、経費の削減を行ったりすることは、自分が自由に使えるお金(これを可処分所得と言います)を増やすための重要な手段です。住宅ローンを借り入れて住宅を購入する場合に、購入者の金利負担の軽減を図るための方法である「住宅ローン控除」があります。これは、毎年末の住宅ローン残高または住宅の取得対価のうちの少ない方の金額の1%が10年間にわたり所得税の額から控除されるというものです。借入金額が数千万円に及ぶため、控除額も多額。節税効果が大きくなります。
住宅ローン控除は、ローンを組んだら必ず受けられると考えるお客様も少なくありません。すべての住宅ローン利用者が控除を受けられるわけではないのです。当記事では、AFPと宅地建物取引士の資格を所持する私が、独身者を対象とした住宅ローン控除の注意点について解説します。
登記簿で何平米あるかを確認する
1人暮らしの間取りは、広くても2LDK。予算を考えると1LDK、1K、ワンルームを選ぶ人もいるでしょう。実は、その面積によって住宅ローン控除が使えない場合があるのです。
控除してもらえる条件は床面積が50㎡、自己居住の部分が総床面積の2分の1以上です。独身者の場合は50㎡以下の物件を選んでしまいがちですので、注意が必要です。間取りに惑わされず、平米数をしっかとり確認しましょう。
平米数はマンションのパンフレット、販売図面と登記簿謄本、登記記載事項証明書では記載されている広さが異なります。これは、前者には隣の家との間にある壁の中心から測った面積(壁芯面積)が、後者には壁に囲まれた内側の部分、つまり生活に使える空間の面積(内法面積)が記載されているためです。住宅ローン控除を適用するかどうかは、登記簿謄本に記載されている面積(内法面積)を基準にしています。0.1㎡でも狭いと、住宅ローン控除が受けられません。
建築してから何年経っているかを確認する
支払いのことを考えると、新築ではなく中古マンションを購入しようと思う人もいるでしょう。ここで注意すべきは、住宅ローン控除の適用要件に築年数があるということです。耐火建築物は築25年、非耐火建築物は築20年以内、それよりも築年数が経っている物件に住宅ローン控除はありません。
耐火建築物とは、建物の主な材料が石やれんが、コンクリートブロック、鉄骨造(軽量鉄骨を除く)、鉄筋コンクリート造、鉄骨鉄筋コンクリート造のものです。マンションはこれにあてはまります。木造の一戸建ては非耐火建築物に該当します。自分が購入しようとする物件がどちらにあてはまるかは、建物の不動産登記簿(登記事項証明書)に記載された建物の構造によって判定します。
ただし、もし要件から外れてしまった場合でも、住宅ローン控除を受けられる可能性があります。2014年以降は「耐震基準適合証明書の取得」「既存住宅売買瑕疵保険付保証明書の添付」をすることで控除が受けられるようになりました。どちらもあまり聞きなれないものですね。
・耐震基準適合証明書の取得
耐震基準適合証明書は、建物の耐震性が基準を満たすことを建築士等が証明する書類です。確定申告までに提出しなくてはいけません。
・既存住宅売買瑕疵保険付保証明書の添付
既存住宅売買瑕疵保険付保証明書は、不動産業者にお願いして加入してもらうもので、所有権移転までに提出しなくてはなりません。
証明書を取得するには時間と費用がかかります。住宅ローン控除の要件がたくさんあるために、契約してからこれらの制度に気付いたという人も少なくないでしょう。
もし転勤になったら控除は受けられる?
住宅ローンは20年、30年と長期間で利用するものです。その間、ライフステージが変化し、一時的にその住宅に住めないこともあるでしょう。
例えば「転勤」です。転勤で勤務先の用意した宿舎に居住し、自宅へは月に数回帰宅する程度になると、住宅ローン控除を受けられない場合が出てきます。住宅ローン控除は当事者がその住宅に住んでいることが適用条件です。住民票を移動せずに寄宿舎に居住したり、いったん寄宿舎へ移り住み、数年後に自宅に戻ってきたりしても認められないのです。
なお、配偶者や扶養家族など、生計を共にする人が引き続き自宅に住む場合は特例として住宅ローンの控除が受けられます。とはいえ、独身者である場合は「生計を共にする人」がいないケースがほとんどでしょう。
会社の都合でやむを得なく転居する場合は「転任の命令等により居住しないこととなる旨の届出手続」を税務署に提出することで、再び自宅に住むようになったときに、再度控除を受けられます。ただし、再居住する際に住宅ローンの控除期間が残っている場合に限られます。
大切なのは購入前の情報収集
このほかにも、住宅ローン控除を受けるためには以下のような条件があります。
・取得の日から6カ月以内に居住し、適用を受ける各年の12月31日まで居住し続けている
・この特別控除を受ける年分の合計所得金額が3,000万円以下である
・10年以上にわたり返済する方法になっている
・居住し始めた年とその前後2年ずつの計5間、以前住んでいた住宅を譲渡した場合の「長期譲渡所得の課税の特例」などの適用を受けていない
住宅ローンというと、まず銀行へ行って相談する人がほとんどかと思います。このほかにも、不動産会社やファイナンシャルプランナー、税理士、税務署など、色々な場所で相談に乗ってもらい、多面的に住宅購入を検討すると失敗がないでしょう。節税するためには購入前の事前調査が大事です。