護身術に最適!先人の教えを守り伝える「小林流沖縄空手」の魅力

●空手道の起源→沖縄で発祥し、薩摩・島津氏の禁武政策下で発展
●競技空手と沖縄空手の違い→競技空手が勝敗に重きをおくのに対し、沖縄空手は自分の武の道を究めることに重きをおく
●沖縄空手の流派のひとつである小林流(しょうりんりゅう)の特徴は、「無理がなく自然であること」、「力を強くするのではなく、強い力を生み出す方法が学べること」、「型に柔軟性と敏捷性があること」
●小林流の教えや技は、力がない女性や子どもに適していて、護身術として身につけることができる
●実際に体感してみると、もっともっとその魅力にハマる!

数年前、縁があって福岡の小林流(しょうりんりゅう)沖縄空手道場を訪ねることになった私。そこで目にした小林流沖縄空手の型の美しさに、私は一瞬にして魅了されてしまいました。それ以来、自らも武の道を志す日々が続いています。

小林流の教えのひとつである「無理がなく自然であること」がそのまま体現されたような型は、まさに「美しくて格好良い」の一言。そして、実際にやってみることにより、それ以上の魅力にも気付けました。型を構成する技の一つひとつに意味があること、それらがすべて自分や自分の大切な人を守るための術になるということ……。こうして私は、小林流沖縄空手にどっぷりとハマっていったのです。

今回は、そんな小林流沖縄空手の魅力をたっぷりとご紹介します。この記事を読んだ方に、私が空手に出会ったときの感動を少しでもお届けできればと思います。

空手道のルーツは沖縄にあり

空手道発祥の地は、沖縄とされています。起源については諸説ありますが、空手の語源が「唐手」であることや、型の名称に中国語が使われていることから、中国から伝わった拳法と、それ以前にもともと沖縄にあった武術である「手(ティ)」が組み合わさって独自に発達したものであると考えられています。

空手が武道として本格的に発展したのは、17世紀初頭。沖縄がまだ琉球と称されていた頃です。この頃の沖縄は薩摩・島津氏の征服を受けており、その支配下において「禁武政策(反乱を防止するため、武器の所持を禁止する政策)」が実施されていました。当政策の影響を受け、武器を持たないものが自分や他人の命を守るべく己の手足を武器として磨いた術が、今日の空手道に至ります。

沖縄空手の目的は「自分なりの武の道を究めること」

沖縄(琉球)空手とは、沖縄の先人たちが伝承してきた技や鍛練法を継承する、伝統的な空手です。一般的な空手(スポーツとしての空手、競技空手)が定められたルールにのっとって勝敗を決めることに重きをおくのに対し、沖縄空手では、伝統を守りながら自らを鍛錬していく中で、自分なりの武の道を究めることを目的としています。

そのため、競技空手の場合は加齢による体力の衰えから続けていくことは難しくなりますが、沖縄空手の場合は年を重ねても続けられます。むしろ、空手と真摯に向き合った時間が長ければ長いほど、技は磨かれ、より洗練されたものになっていくのです。

小林流の開祖は知花朝信(ちばな ちょうしん)

小林流(しょうりんりゅう)は、糸洲安恒(いとす あんこう)の弟子である知花朝信(ちばな ちょうしん)が開いた流派です。他の大家が伝えた伝統的な流派と区別するため、知花によって小林流と名付けられました。剛柔流、上地流と並び、沖縄空手の三大流派の1つとされます。また、沖縄空手には大きく分けて首里手、那覇手、泊手の三系統がありますが、小林流は「首里手」の流れを汲みます。

型は、基本型の「ナイハンチ(初段~三段)」と、普及型の「ピンアン(初段~五段)」を基礎とします。ナイハンチ初段は、首里手に古くから伝わる最も基本的な型で、これを糸洲安恒が改良し、二段・三段を考案しました。独特の立ち方を崩さず体の高さを一定に保ったまま左右の動きを行い、足腰を鍛錬します。

【小林流 ナイハンチ初段】

また、糸洲は、上級型からさまざまな技を取り入れたピンアンを作り上げます。ピンアンには左右に加えて前後斜めへの動きがあり、これを繰り返し学習することで、パッサイ(松村・糸洲)、クーサンクー(大・小)、チントウといった上級型への発展につなげます。

型の鍛錬において最も重要なことは、ただ繰り返して覚えるのではなく、技の意味を理解しながら行うということです。そのため、「型の分解」を行って、一つひとつの技の成り立ちを学習します。通常一人で行う型ですが、分解では実戦の場で相手がいることを想定し、実際に相手から繰り出される攻撃を型どおりに受けます。これにより、「なぜその動きが必要なのか」、「その動きにどのような意味があるのか」を理解します。

同じ受けの技にしても、どのような攻撃に対して受けているかという解釈は流派によって異なるため、分解は、それぞれの流派の色が表れる部分でもあります。

小林流が持つ4つの特徴

【1】無理がなく自然であること

これは小林流全体に流れる基本的な考え方で、立ち方、構え、呼吸法、そのどれにも無理がなく、自然であることに重きをおいています。また、力の取り方・抜き方に特徴があります。相手を突く瞬間に力を込め、次の動作に向けてふっと力を抜く。これを呼吸法と合わせると、一瞬の攻撃にパワーとスピードが加わって、攻撃力が増大します。

【2】「先手なし」「攻防一如」の心

「空手に先手なし」という言葉があります。これは、決して自ら攻撃をしかけることはなく、空手の技があくまで自分や他人の身を守るための術であることを示す、小林流の教えを意味します。

もちろんこれは、「攻撃を重視しない」という意味ではありません。実戦においては、一瞬の攻防が勝敗の決め手となります。そのため、ただ相手の攻撃を防御する、攻撃の力を弱める受けではなく、受けそのものが相手を打ち砕く攻撃となり、一瞬にして有利・不利の立場が逆転する、攻撃としての防御が必要になってくるのです。

【3】巻きわらによる鍛錬

小林流では、巻きわらの鍛錬をとても大切にしています。巻きわらとは、板にわらを巻きつけた鍛錬用の道具のことで、これに繰り返し繰り返し打ち付けることにより、こぶしを鍛えます。ただ空中にこぶしを突きだすだけの空付きではなく、板からの反発力を身体に感じることで、真の威力が培われていきます。

平木三大先生(沖縄小林流空手道協会 志道館平木道場館長 教士八段)によると、巻きわらの鍛錬を積むことでこぶしにタコのようなものができて、こぶしが一回り厚く、そして固くなり、自らのこぶしそのものが武器のようになるのだそうです。おっしゃる通り、平木先生のこぶしはとても大きいです。「この手で突かれたらひとたまりもないだろうな……」と感じます。

【4】一瞬の攻撃(受け)

小林流と他流派との最も大きな違いは、力そのものを強くするのではなく、一瞬の攻撃(受け)に、限りなく100%に近い力を乗せることを重視し、その方法を身につけることが目的である点です。そのため、剛柔流をはじめとした主に力の鍛錬を行う流派の型には、重々しさや力強さがあるのに対し、小林流の型には緩急に富んだ柔軟性と、瞬発力・反射力・技の素早さといった敏捷性があります。

空手歴20年の松門周さん(小林流三段、全空連初段)も、”小林流の最大の特徴は型のスピードとキレにある”と言います。松門さんは小林流のほか、競技空手として上を目指していくために、剛柔流などの他流派にも精通しています。松門さんが他流派を学んでみて肌で感じていることは、小林流を究めている人は、他流派の型を演武するととても吸収が早いということです。それは、小林流の型に柔軟性があり、緩急のつけ方が優れているため。一方で、他流派の人が緩急をつけて小林流の型を行おうとすると、難しく感じるそうです。

【(他流派との比較)小林流 ピンアン初段】

【(他流派との比較)和道流 剛柔流 ピンアン初段】

護身術としての小林流沖縄空手

小林流は力よりも技に重きをおくため、体力がない人や、力に乏しい女性・子どもにこそ適しています。もちろん攻撃力の底上げを行うための鍛錬も必要ですが、自分にとって一番力が入る場所、そこに手足を持っていくタイミング、力の抜き方、それらと呼吸を合わせる方法をつかめば、パワーがなくても思いもよらない大きな力を生み出すことができます。

小林流の各道場では、特に女性や子どもを対象とした護身術教室も行っています。ここでは、危険に遭遇したときに自分の身を守るための実践的な方法を教えてくれます。

例えば、女性が体の大きさも力も勝る男性に襲われたときの対処法です。突然腕をつかまれて身動きが取れなくなったときは、つかまれたままの状態からまず自分の両手を胸の前で組み、組んだ状態の手を自分の体の方にぐっと勢いよく引き寄せてください。両手を組むことで非力な人でも力を込めやすくなるため、簡単に相手の手が自分の腕からはずれてしまいます。

言葉で説明するのは非常に難しいのですが、実際にやってみると、押しても引いてもびくともしなかった腕が、するっとはずれる感覚がわかり、「力の取り方だけでこんなに差があるんだ!」ということが実感できます。

やればやるほど魅力にハマる!小林流沖縄空手の「奥深さ」と「面白さ」

型の練習を続けていると、ふと「力を取る」ということを体で実感できるときがあります。それまでは力を込めているつもりでもただ力んでいるようにしか感じられなかった突きや蹴りに、手足の先まで力が届いて、突き抜けるような感覚を覚えるのです。ただ、「ああ、これだ!この位置だ!」と思った次の瞬間には、もう力の取り方がわからなくなっていて、さっきの感覚は何だったのだろうと思えることもあります。そこが空手の難しさであり、奥深さであり、そして「面白い!」と感じる部分でもあります。こうした瞬間を何年にも渡って積み重ねていくことで、やがて熟練した技が身についていくのでしょう。

小林流沖縄空手の道場は、沖縄・福岡をはじめとし、全国各地にあります。ご興味がある方はぜひ一度道場を訪ねてみて、言葉では語りつくせない小林流の魅力を、自分の心と体で感じてみてくださいね。

 

この記事を書いた人

護身術に最適!先人の教えを守り伝える「小林流沖縄空手」の魅力

原田怜果

ライター

福岡県出身、佐賀県在住。2014年よりライター活動を開始。これまで、建築、美容、栄養関連など、幅広い分野の執筆を手掛ける。
現在は中央大学通信教育課程で法律について学びながら執筆活動を続けており、法律関連の執筆も得意とする。

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