デジタル一眼レフの普及期以来の一眼レフユーザーである私。最初の1台を2004年に購入しているので、かれこれ13年使っていることになります。最初はコンパクトデジタルカメラとは明らかに違う写りをするだけで感激したものです。使い込み、機種を代替わりさせていくうちに画質はより良くなり、便利になっていきましたが、同時に初代機を買った頃の感激が薄れていっていることに気づきました。そんな折に友人から勧められたのが、オールドレンズです。
写りといい操作といい、まったく新しいデジタル一眼の一面を見せつけられました。以来、オールドレンズファンの1人となっています。デジタル一眼に飽きかけているユーザーやデジタル一眼を趣味としてもっと使い込みたいという方に、オールドレンズとは何か、その描写はどんなものかを知ってもらいたいと思い、この記事を執筆しました。
レンズ交換が可能な一眼レフ
スマートフォンの普及ですっかりデジタルカメラの影が薄くなってしまっていますが、それでもデジタル一眼レフには根強い人気があります。スマートフォンのカメラとデジタル一眼レフの一番の差は、レンズを交換できる点にあります。同時に、様々なタイプのレンズがあることも魅力のひとつであると言えるでしょう。
まず、1本で幅広い焦点距離をカバーできるズームレンズと焦点距離が固定された単焦点レンズの2つに大別されます。そして、レンズには「明るさ」があります。一般的に明るいレンズのほうが高性能で、撮影でも有利な点が多いとされています。また、カメラにレンズを装着するレンズマウントにも違いがあります。各メーカーで異なるマウントを使っているので、メーカーの数だけマウントがあると言ってもいいでしょう。
これらの大きな違いに加えて、使用するレンズの材質やレンズの口径で性能の良し悪しが変わってくるので、高性能レンズを使えば当然写真もより美しく撮影することができます。レンズ交換ができないスマートフォンとの決定的な違いは、ここにあるのです。
独特な写りをするオールドレンズ
現在では、「一眼レフ」と言えば「デジタル一眼レフ」を指しますが、以前はフィルムを使っていました。このフィルム時代の一眼レフも当然レンズは交換式で、マウントさえ適合すれば当時のレンズをデジタルで使うことが可能です。
この特徴を活かして、40~60年前に製造されたレンズをデジタル一眼に装着して使うことができます。これらの古いレンズは「オールドレンズ」と呼ばれます。
戦前からカメラメーカーとして有名だったフォクトレンダーやライカ、現在でもレンズで有名なカール・ツァイスをはじめ、国内外数多くのメーカーのレンズが残り、好事家に愛用されています。特にカール・ツァイスは、戦後東西に分裂して存在し、オールドレンズでは東独製のものが高い評価を得ています。また、カール・ツァイスの技術をソ連へ持ち込み、ソ連でコピー品が作られ、こちらも独特の写りで人気があります。
これらのオールドレンズのマウントは現在の一眼レフと互換性はありませんが、M42マウントというレンズマウントが一時代を築いた時期があり、M42マウントの製品が数多くあります。M42マウントのレンズをデジタル一眼レフに装着するためのアダプターも多く、アダプターを介して装着することができます。
電気的にカメラと接続されていないので、ピント合わせはもちろん、絞りなどもマニュアルで行う必要があります。古い時代のレンズは構造も簡単で、現代のレンズのように鏡筒の中に何枚もレンズを組み込んでいるわけではなく、せいぜい5枚程度しか使われていません。そのため、レンズで色や歪みの補正をしている現代のレンズに比べて独特な写り方になるのです。一方で、非常に高い解像力を示すレンズもあります。
オールドレンズは単焦点の明るいレンズが多く、絞り開放で使って特徴的なボケ味を楽しむのがひとつの傾向と言えます。絞ってもまた個性的な写りをしますが、開放で撮るほうがオールドレンズをより楽しめます。
オールドレンズで撮影してみよう
それでは、実際にオールドレンズで撮影した写真を見てみましょう。現代レンズに比べて背景のボケ方が違っており、解像力の高さやシャープさ、色の出方に特徴があらわれます。
Aus Jena Pancolar 50mm/F1.8
このレンズは銘に「カール・ツァイス」が入っていませんが、東西に分断されていた頃のカール・ツァイス製レンズです。「Jena」銘が入っているので、東独で製造されたものとなります。
絞り開放で撮影。右側の花にピントが合っていますが、非常に高い解像力で描写されています。一方、背景のボケは若干ノイジーな感じですが、このようなボケがオールドレンズの持ち味のひとつと言えるでしょう。
Pancolarはロットによっていくつかの種類に分かれますが、このレンズは初期ロットの1本で、写真が黄ばんで見えます。これは「アトムレンズ」というものであり、レンズ素材に酸化トリウムという放射性物質を使っており、光の屈折率にすぐれ、空気さえ写るという描写力の高さが評判になっています。その半面、レンズが黄色くなる(黄変する)ため写真に影響が出ます。
清原光学 VK70Rソフトレンズ 70mm/F5
30年くらい前まではこようなレンズも国産メーカーから販売されていたのですが、今ではすっかりなくなってしまいました。このレンズは「キヨハラソフト」という名前で有名なソフトフォーカスレンズです。
絞り開放で撮ると靄がかかったような写りになり、光の当たっている部分が光って個性的な1枚になります。現代のレンズでは再現が難しいオールドレンズならではの写真です。
Jupiter9 85mm/F2.0
カール・ツァイスに「Sonnar」というレンズがありますが、それをソ連がコピーして作ったレンズがこのJupiter9です。Sonnarは持っていないので実比較はできないのですが、Sonnarに非常に近い写りをするそうです。
絞り開放で撮影。ピントの合っている部分の解像力が非常に高い一方で、背景のボケがとろけるように写るのが特徴です。やや渋い色味で写っていますが、これが持ち味と言えるでしょう。
PENTAX Super-Takumar 28mm/F3.5
オールドレンズの中でも入手しやすく、写りの良さでも定評のあるPENTAXのSuper-Takumarシリーズ。これは28mmのレンズで当時の標準的な広角レンズでした。
絞り開放で撮影。ピントの合った部分の花の産毛までキレイに描写しています。背景ボケも現代レンズと遜色ない美しさで、発色の良さが特徴です。
PENTAX Super-Takumar 135mm/F3.5
こちらはSuper-Takumarシリーズの当時標準的だった中望遠レンズとなる135mmのレンズです。写りの傾向は28mmのものとほぼ同じです。
絞り開放で撮影。F3.5でもこれだけキレイなボケと高い解像力を誇るレンズながら、安価で入手できる入門向けのレンズと言えます。
手頃で奥深いオールドレンズ
以上、5本ほど作例を見てみましたが、いかがでしたか?現代のレンズでも十分に撮影できる写真かもしれませんが、キットレンズなど安価なレンズでは出せない味があることがおわかりになったことでしょう。これらのレンズが数千円から入手できるところが、オールドレンズの魅力とも言えます。
オールドレンズの中には伝説と化しているレンズがいくつもあります。富岡光学というメーカーが作ったレンズやカール・ツァイスの超広角レンズなどは流通量が少なく、それでいて非常に写りがいいことで人気があるため、現在でも数万円以上で取引されていたりします。
安価で味のある描写の写真が撮れるオールドレンズは、一眼レフの新たな楽しみ方を見いだしてくれることでしょう。一度試してみてはいかがでしょうか。