本格ミステリって何?オススメの作品と共に紐解く「本格ミステリ」の定義

●本格ミステリとは「謎解き」「トリック」「頭脳派名探偵の活躍」に重きを置いたミステリ作品である。「謎解き」とは作中で提示された謎が読者の前で解かれること。「トリック」とは作中の謎を構成する要素。「頭脳派名探偵の活躍」とは知性溢れる探偵の活躍劇のことを示す。 紹介作品:『Yの悲劇』、『獄門島』
●「読者への挑戦」という読者と作者の頭脳戦文化がある。作者が読者に対し作中でヒントを見せることで、読者自ら作中の探偵と同じ立場に立って推理ができる。 紹介作品:『月光ゲーム Yの悲劇’88』、『占星術殺人事件』
●新本格、とは1980年代後半から90年代にかけて生み出されたミステリ作品全般のことを示す。明確な定義はなく、およそこの年代に生み出されたミステリ作品全般のことを指す。本格になくて新本格にある要素をひとつ挙げるとすればそれは「警察の無力化」。警察の科学捜査の及ばない現場での殺人がテーマになることが多い。 紹介作品:『十角館の殺人』『法月綸太郎の冒険』
●2010年代でも思考を凝らした本格ミステリの作品が数多く出版されており、「このミステリーがすごい!」1位、本屋大賞ノミネート作品に並んでいる。 紹介作品:『体育館の殺人』『屍人荘の殺人』
●本格ミステリとは、日常の中のちょっとした「謎」を解くときに必要な思考力、論理力、推理力、解決力を養ってくれるサプリメントのようなものである。

何事にも「本格派」というものはありますが、ではミステリ小説における「本格」とは一体何なのでしょうか。本屋大賞ノミネート作品、そして「このミステリーがすごい!」の1位にも本格ミステリ作品がランクインした今、この「本格ミステリ」が熱い! 

本格ミステリとはどういうミステリのこと?他のミステリとはどう違うの?新本格っていう単語をよく聞くけどその意味は? 

当記事では、こうした疑問にミステリ歴10年の著者が答えます!この記事を読めば(そしてさらにこの記事の中で紹介されている作品を読めば)ミステリについて「うんちく」を語れる「本格派」ミステリ通になれること間違いなしです。きっとあなたも本格ミステリ作品の虜になることでしょう。著者オススメの作品と共に紐解く本格ミステリの定義。ミステリ初心者もミステリマニアの方も是非是非お楽しみください!

そもそも本格ミステリの定義とは?

本格ミステリとは、ミステリの中でも「謎解き」「トリック」「頭脳派名探偵の活躍」に主眼を置いたものを指します。

「謎解き」とは、作中で提示された謎(ex.密室で人が殺された、など)が読者の前で解かれることを示します。明確な謎解きシーンがあるか否かが基準となります。例えば、『イニシエーション・ラブ』(著:乾くるみ)は、最後まで謎解きがないので本格ミステリとは言えません(変格、または奇妙な味、と呼ばれています)。
「トリック」とは、作中の謎を構成する要素(ex.前述の密室殺人の場合、どうやって密室状況を作り出したか)のことを言います。本格派における「トリック」とは、あくまでも論理性に重きを置いている点が他のミステリとは異なります。例えば、作中ずっと男性に見えていた人物が実は女性だった、というような文章の見せ方的なトリックは本格派トリックとは言えません。
最後に「頭脳派名探偵の活躍」は、読んで字の如く。しかし、名探偵が活躍していればいいのかと言えばそういうわけでもありません。例えば、頭よりも足を使うタイプの人物が探偵役の場合、本格ミステリというよりもハードボイルド作品ということになるでしょう。

以下に本格ミステリの金字塔を紹介いたします。

『Yの悲劇』 著:エラリー・クイーン

・あらすじ

家族全員が奇人変人で有名なハッター家。そんなハッター家で起こった毒殺未遂事件。そして、ハッター家の独裁者エミリイ夫人の撲殺事件。元舞台俳優の名探偵がこの謎に挑む!

・解説

本格ミステリの代表的な作家と言ったらエラリー・クイーン。そして、エラリー・クイーンと言ったら『Yの悲劇』。後ほど紹介する新本格派の作家さんたちも多くオマージュ作品を出しているまさに金字塔。

『獄門島』 著:横溝正史

・あらすじ

終戦後1年。金田一耕助は戦友、鬼頭千万太の死を知らせるため、彼の故郷である瀬戸内海の獄門島に向かった。「おれが帰ってやらないと、三人の妹たちが殺される」。やがてその言葉の通りに、島で凄惨な殺人事件が起こり……?

・解説

金田一、と聞くと「じっちゃんの名にかけて!」を思い出す人が多いのでは。何とこの『獄門島』の金田一耕助はそのじっちゃんです。日本を代表する本格ミステリの作品です。

あなたも名探偵?読者への挑戦

本格ミステリ特有の「読者への挑戦」という文化。手がかりを全て読者に提示することで作中の名探偵の立場に立つことができ、読者自ら推理を行う文化のことです。作品を通じて読者と作者が頭脳で戦う――。それが「読者への挑戦」です。作者からの挑戦に、あなたも挑んでみては?

『月光ゲーム Yの悲劇’88』 著:有栖川有栖

・あらずじ

合宿で山のキャンプ場にやってきた推理小説研究会のメンバー。しかし山が突然噴火活動を開始し、道が閉ざされてしまう。閉じられた環境の中で、さらに追い打ちをかけるように殺人事件が起こり……?

・解説

有栖川有栖さんの作品の中でも学生有栖と呼ばれるシリーズの第1作です。クローズドサークルにダイイングメッセージ、本格ミステリの醍醐味をこれでもかと盛り込んだ作品は楽しめること間違いなしです。

『占星術殺人事件』 著:島田荘司

・あらすじ

猟奇的な事件が起きた。6人の処女から、それぞれの星座に合わせて体の一部を切り取り、合体させることで完璧な女性『アゾート』を作るという事件である。時を超えて現代、変わり者の占星術師、御手洗潔がこの謎に挑む!

・解説

ある意味で『実践したくなる』トリックです(人は殺しちゃいけませんよ)。こちらももちろん、ヒントは全て作中に提示されるので是非謎解きに挑んでみてください!

「新本格」とは?読書通はよく聞くけど意外と知らないその定義

「新本格」は、本格と同じく「謎解き」「トリック」「頭脳派名探偵の活躍」に重きを置いています。しかし明確な定義はなく、おおよそ1980年代後半から90年代に生み出されたミステリ作品全般のことを指します。
本格になくて新本格にある特徴をひとつ挙げるとすれば、「警察の無力化」というものが挙げられるでしょう。新本格の作品が出版されるようになった年代は、警察の科学捜査力が目覚ましい発展を遂げた時期でもあります。警察の科学捜査力はミステリにとって天敵とも言える存在です(どんな謎も名探偵の知性によってではなく科学力によって解明されてしまうわけですから)。よって、警察の力を極力排除した環境(例えば、絶海の孤島だとか)を想定した作品が多くなります。

新本格を語るにはこれから!以下に「新本格派」と呼ばれる作家さんたちの作品を紹介します。

『十角館の殺人』 著:綾辻行人

・あらすじ

大分県K**大学の推理小説研究会一行は、角島と呼ばれる無人島を訪れた。島に残る四重殺人事件の現場、青屋敷跡と、島に唯一残る「十角館」と呼ばれる建物を目当てに……。

・解説

新本格流行のきっかけとなった作品。人によって好き嫌いは別れるようですが……新本格を語るには、まずこれを一読すべきでしょう。

『法月綸太郎の冒険』 著:法月綸太郎

・あらすじ

短編集のため割愛。

・解説

読みやすさを重視して短編集を選出してみました。一作一作が論理性に溢れていてこれぞ「新本格の中の本格!」という感じです。

2010年代になってから出版された本格ミステリ

本格ミステリ?なんか古そう……。図書館とかに置いてある(それこそ凶器とかになりそうな)重そうな本のことでしょ?とお思いになるかもしれませんが、そんなことはありません。冒頭でもちらりと説明した通り、最近でも本格ミステリ作品は出ています。
というよりむしろ、最近の方が本格ミステリは熱い!先人たちの知恵を借りながらも、「こんなのありなの?」と言いたくなるような現代独自の設定や、誰もが使ったことのある舞台での殺人などを盛り込んだ、まさにミステリの新時代を切り開いていった本格派作品をどうぞ。

『体育館の殺人』 著:青崎有吾

・あらすじ

風ヶ丘高校の体育館で、放課後、放送部の少年が刺殺された。密室状態の体育館の中に唯一存在していた卓球部の少女が犯人だと警察は決めてかかるが、同じ卓球部の少女たちは彼女を救おうと、学内一の天才と呼ばれている少年に事件の解明を依頼する。

・解説

2012年出版の作品です。本格ミステリの醍醐味、密室。それを体育館という誰もが利用したことのある施設でやってのけるのがこの作品です。論理の展開はナポレオン的一点突破。あなたもこの謎に挑んでみては?

『屍人荘の殺人』 著:今村昌弘

・あらすじ

映画研究会の夏合宿に合流した主人公一行は、そこで予期せぬ事態に遭遇し、籠城を余儀なくされてしまう。そんな中、とても人が起こしたとは思えないほど凄惨な殺人事件が起こり……?

・解説

2017年出版の作品。この作品のシチュエーションってミステリ的にありなんですか? という質問をよく受けますが、私個人の意見を言わせてもらえるのであればありだと思います(ミステリは懐が深いのです)。このミステリーがすごい1位、本屋大賞にもノミネートされた噂の作品を見逃すな!

本格ミステリは知的能力を鍛えてくれるサプリメントである

山があると登りたくなるように、人は謎があると解いてみたくなるものです。皆さんの日常にも謎はいっぱいあると思います(そして嬉しいことに、本格ミステリには「日常の謎」というジャンルも存在するのです!)。

気になるあの子が髪型を変えた理由は?毎日お昼ご飯を一緒に食べているあの人が、いつもと違う定食を頼んだ理由は何か?妻がそわそわと髪の毛を弄っているようだが何かあったのか?

本格ミステリは、そういうちょっとした「謎」を解くときに必要な思考力、論理力、推理力、解決力を養ってくれるサプリメントのようなものです。本を読むと賢くなれると言いますが、本格ミステリ作品は本当に、読めば読むほどあなたの論理的思考・推理力を高めてくれるものなのです。「読者への挑戦」がなくても、作者との一騎打ちだと思って作品に臨めば、自然と思考力が身についていきます。

この記事をきっかけに本格ミステリを読みたくなった!と思っていただければ幸いです。あなたも本格派を名乗れる名探偵になってみてください。謎はいつでも、あなたを待っています。

この記事を書いた人

本格ミステリって何?オススメの作品と共に紐解く「本格ミステリ」の定義

小川舜平

ライター

神奈川県出身。
文学、おでかけ・旅行、心理学関係の記事作成の実績あり。趣味は推理小説を読むこと、映画鑑賞、太極拳。

このライターに記事の執筆を相談したい

関連記事