セルフメディケーションって何?市販薬を理解して生活に取り入れよう

●市販薬とは、薬局・薬店・ドラッグストアなどで販売されている薬を指す。
●市販薬の効果は病院で処方される「処方薬」より弱いとは言い切れない。処方薬として使われていた成分を転用した「スイッチOTC医薬品」ならば、処方薬と同等の効果が得られる。
●風邪薬について処方薬と市販薬で比べた場合、大差ない効果を得られる場合がある。
●処方薬を入手するためには診察料や調剤料が発生するため、場合によっては市販薬を購入するほうが安く済む。
●セルフメディケーション税制の所得控除を受けたいときは、対象商品を購入したレシートを保管しておく必要がある。
●日本の市販薬は「爆買い」の対象になったほど、世界で注目されている。
●スイッチOTC医薬品の種類は、今後も増えていくことが見込まれる。

皆さんは「セルフメディケーション」という言葉をご存知でしょうか。世界保健機構(WHO)は、セルフメディケーションを「自分自身の健康に責任を持ち、軽度な身体の不調は自分で手当てすること」と定義しています。
病院に行く時間が取りづらいサラリーマンや育児中の方には、近所のドラッグストアや薬局で購入できる「市販薬」を使用したセルフメディケーションをおすすめします。

当記事では、市販薬を専門として製薬企業や医薬品関連団体に取材活動を行ってきた私が、市販薬について説明します。市販薬にまつわる疑問を解消し、体調管理の一助として市販薬を使用していただけたら幸いです。

市販薬は販売方法により4つに分類される

市販薬とは、薬局・薬店・ドラッグストアなどで販売されている「一般用医薬品」と「要指導医薬品」のことを指します。店のカウンター越しに購入できることから、”Over The Counter”の頭文字を取って「OTC医薬品」という名称がつけられています。そのほかにも「大衆薬」と呼ばれることがあります。

市販薬の4つの分類

市販薬には、「要指導医薬品」「第1類医薬品」「第2類医薬品」「第3類医薬品」という4つの区分があります。これは、薬の強さを表しているのではなく、薬に含まれる成分などを考慮して販売方法を分類したものです。

薬剤師から情報提供を受けないと購入できない商品もある

第1類医薬品と要指導医薬品を店頭で購入する際は、薬剤師の情報提供をうけないと購入できません。要指導医薬品以外の薬はインターネットでの販売が可能とされていますが、第1類医薬品を購入の際は、自身の健康状態を回答したり薬の説明を確認するなどの手続きが必要です。

市販薬独自の薬と処方薬から転用された薬がある

市販薬は、【1】市販薬のためだけに配合された市販薬独自の製剤、【2】医療用から市販用に転用(スイッチ)されたため処方薬と同等の成分が含まれる製剤(スイッチOTC医薬品)ーの2種類に分けられます。
【1】は市販薬として使用されるために作られた薬ですので、処方薬には存在しません。【2】は処方薬として元々使われていた薬で、処方薬と同じ成分を配合しています。

【1】市販薬のためだけに配合された市販薬独自の製剤

例えば市販の風邪薬(総合感冒薬)は、1錠の中に解熱鎮痛成分や鎮咳去痰成分など複数の有効成分が含まれた配合剤で、市販薬独自の処方設計です。

例)「ルルアタックEX」(製造販売・第一三共ヘルスケア)

喉の腫れや痛みを鎮める「トラネキサム酸」「イブプロフェン」、痰を出しやすくする「ブロムヘキシン塩酸塩」、鼻水やくしゃみをおさえる「クレマスチンフマル酸塩」などが含まれる配合剤で、風邪の諸症状を改善します。

【2】処方薬と同等の成分が含まれるスイッチOTC医薬品

一方で、元々は処方薬として使われていた成分を市販薬に転用したスイッチOTC医薬品は、薬剤師から情報提供を受けなければ購入できない「要指導医薬品」にあたります。原則3年で一般用医薬品に移行され、インターネットで販売することが可能となります。

例)「ロキソニンS」(同・第一三共ヘルスケア)

頭痛、歯痛、抜歯後の疼痛などに効果を発揮する痛み止めです。有効成分は「ロキソプロフェンナトリウム水和物」です。2010年に処方薬から市販薬に転用することが決まり、翌年から製品化されています。現在はインターネットで購入することができます。

市販薬は効果が弱いわけではない

市販薬は安全性が重視された処方設計ですので、処方薬に比べて有効分の量が少なく、処方薬よりも効果・副作用が弱い傾向にありますが、一概に「効果が弱い」とは言い切れません。

風邪のときに使用する薬(市販薬VS処方薬)

では、配合成分がほぼ同一の市販薬と処方薬を比べたとき、効果に違いがあるかを見ていきましょう。ここでは、のどの痛みや熱、鼻水などの風邪の諸症状を緩和させる配合剤で比較していきます。

a.市販薬を使用する場合

【使用する薬】
パイロンPL顆粒(同・シオノギヘルスケア)

【効能効果】
かぜの諸症状(のどの痛み、発熱、鼻みず、鼻づまり、くしゃみ、悪寒(発熱によるさむけ)、頭痛、関節の痛み、筋肉の痛み)の緩和
(「パイロンPL顆粒」添付文書より引用)

【1回服用0.8グラムあたりの有効成分の含量】
サリチルアミド 216mg、アセトアミノフェン120mg、無水カフェイン48mg、プロメタジンメチレンジサリチル酸塩10.8mg

【服用回数】
1日3回

b.処方薬を使用する場合

【使用する薬】
PL配合顆粒(一般名・プロメタジン 1.35%等配合非ピリン系感冒剤)

【効能効果】
感冒若しくは上気道炎に伴う下記症状の改善及び緩和
鼻汁、鼻閉、咽・喉頭痛、頭痛、関節痛、筋肉痛、発熱
(「PL配合顆粒」添付文書より引用)

【1回服用1グラムあたりの有効成分の含量】
サリチルアミド270mg、アセトアミノフェン150mg、無水カフェイン60mg、プロメタジンメチレンジサリチル酸塩13.5mg

【服用回数】
1日4回

市販薬でも処方薬と同等の効果が期待できる

PL配合顆粒はこれまで処方薬しかありませんでしたが、処方薬と同じ成分が配合された市販薬「パイロンPL顆粒」が2017年に販売開始となりました。上記の通り、処方薬・市販薬ともに全く同じ種類の成分が配合されています。
成分の配合量は、市販薬のほうが処方薬より少しだけ少ない処方設計となっていますが、効果が明らかに弱いということはありません。これまで病院でPL配合顆粒を処方されて効いた方は、市販化されたもので対処できるといってよいでしょう。

市販薬は処方薬より高いとは言い切れない

先ほどご紹介した風邪薬「パイロンPL顆粒」と「PL配合顆粒」を例にして、どちらの薬を入手するほうが安いのかを見てみましょう。

a.「パイロンPL顆粒」(市販薬)
→1箱12包(4日分)で1350円、1袋0.8g112.5円

b.「PL配合顆粒」(処方薬)
→1g6.4円、12g(3日分)で76.8円

処方薬が安いわけではない

上記だけみると、市販薬より処方薬のほうが格段に安いように見えます。確かに、薬そのものの価格だけに着目すれば、処方薬のほうが安いです。
しかし、処方薬には薬価以外に診察料(初診・再診)、処方箋料、調剤技術料、薬学管理料などが発生するので、今回の場合は結果的に処方薬のほうが高くなります。

市販薬は所得控除の対象に

2017年1月から「セルフメディケーション税制」が施行され、対象となる市販薬の購入額が年間12,000円を超えた場合には所得控除を受けられるようになりました。対象となる医薬品の購入費用のうち12,000円を超える額について、上限を88,000円として控除されるという制度です。この制度を利用すれば、市販薬をよりお得に使用できます。

対象商品を購入した際のレシートは保管を

税制の対象となる製品の多くには、パッケージに識別マークが表示されています。また、対象商品を購入したときのレシートにも、税制の対象商品であることを示すマーク(★マークなど)が記載されています。
セルフメディケーション税制の対象となる市販薬を購入した際は、ドラッグストアなどで受け取ったレシートを保管しておきましょう。

【識別マーク】

日本一般用医薬品連合会ホームページより)

日本の市販薬は海外でも人気

訪日外国人による大量購入が2015年頃に話題となり、「爆買い(ばくがい)」という言葉はその年のユーキャン新語・流行語大賞に選ばれました。主に日本の電化製品や化粧品が大量に購入される様子がテレビや新聞で盛んに報道されましたが、実は日本の市販薬もこの爆買いの対象になっていました。

龍角散は絶大な人気を誇る

とくに鎮咳去痰剤の「龍角散」(製造販売・龍角散)はアジア諸国からの反響が非常に高い商品です。龍角散のように日本で古くから存在する市販薬には独自の処方設計を施しているものが多く、他社や他国には真似できないオンリーワンの製品なのです。日本の市販薬の価値は、今後も高まっていくことが期待されます。

正しい知識を身に着けよう

厚生労働省は「医療用から要指導・一般用への転用に関する評価検討会議」を開催し、処方薬から市販薬に転用するべき新たな成分を選定しています。今後、スイッチOTC医薬品はさらに増えていくことでしょう。
軽度な体調の不調を自分で手当てできるようになれば、生活の質(クオリティ・オブ・ライフ)の向上が期待できます。市販薬と上手に付き合っていくために、病気や薬に関しての正しい知識を身に着けていきましょう。

この記事を書いた人

セルフメディケーションって何?市販薬を理解して生活に取り入れよう

牧 美穂

ライター

埼玉県出身、神奈川県在住。
化学業界の新聞記者を経て、フリーライター業を開始。製薬企業や関連団体への取材経験をもつ。現在はビジネス雑誌で取材記事を中心に執筆中。趣味は料理と動物観察。

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