四国遍路の結願者が語る!歩いてみないと分からない注意点やコツ

●約1,200kmの四国遍路を歩き切るには事前準備が欠かせない。しかし、準備万端に整えても、歩いて初めて分かる苦労も多い。
●特に注意すべきは「足のマメ」「水分補充」「効率的な時間の使い方」である。
●足のマメはリタイアにもつながりかねない。悪化させないためには適切な処置が必要。
●水分補給の重要さは言わずもがなであるが、厄介なのは飲料そのものを補充しにくいこと。いざというときに飲料を切らさないように工夫する必要がある。
●お寺の納経所には「終了時間」がある。ギリギリで間に合わないと、翌日の計画が大幅に狂い、その日に泊まる場所にも悩まされることになる。そうした時間との勝負は頻繁に訪れるため、効率的な時間の使い方が求められる。
●実際に1カ月歩いて結願した筆者の経験から、実践的な注意点やコツを紹介する。

弘法大師・空海の足跡をたどり、四国八十八カ所の札所を巡るお遍路。毎年10~20万人の人が訪れるという。最近はマイカーやバスツアーが主流だが、やはり、地元民の「お接待」を受けながら、古の遍路道を行く「歩き遍路」は格別である。さらに、一気に最後まで歩き切る「通し打ち」は、何事にも代えがたい貴重な体験となる。

ただし、総距離はおよそ1,200km、30~40日はかかる過酷な旅である。無事「結願」するためには、入念な準備が欠かせない。しかし、準備万端に整えても、歩いてみて初めて分かる苦労も多く、中には適切に対処しないとリタイアにつながりかねない重大なものもあったりする。

そこで、1カ月歩いて結願した筆者の経験から、これから歩き遍路・通し打ちに挑戦する方へ向け、特に気をつけるべき注意点やコツをいくつか紹介したい。

肉体的に最もつらいのは「足のマメ」

山道のイメージがあるお遍路だが、実は道程の約8割がアスファルト舗装路だ。その上を1日に30~50kmと歩くため、足裏に蓄積されるダメージは計り知れず、何よりも靴選びが重要となる。

最適なのは、重厚な登山靴でも軽量なウォーキングシューズでもなく、その間に位置する「ハイキングシューズ(ローカット)」だ。それも1サイズ大きなものを買い、クッション性の高いインソールと厚手の靴下でピッタリ合うように調整する。防水透湿素材であるかもポイントだ。

それでも、歩き始めるとわずかな靴擦れや蒸れによって、おそらく2~3日で足裏にマメができる。このマメこそが肉体的には最もつらく、リタイアの原因としても最多という。そこで、マメの適切な処置が必須となる。手順は(1)水ぶくれの段階で、針やハサミで穴を開けてしっかりと水を抜く。(2)軟こうタイプの消毒薬を塗り込む。(3)テーピングやばんそうこうで保護する。(4)就寝時は裸足になって湿気を払う。

こうして悪化しないように処置すれば、そのうちマメが固くなって痛くなくなる。肉体的には他にも、足腰の関節・筋肉痛、リュックの重みによる肩の痛みなどもあるのだが、いずれも1週間程度で自然に治まったり、リタイアするほどではなかったり、そこまで深刻ではない。しかし、足のマメだけは悪化すると本当に歩けなくなるので、くれぐれも対策を怠らないようにしよう。

「飲料確保」が死活問題に

毎日何十kmも歩けば、かなりの量の汗をかく。

参考までに、筆者が歩いたのは8月の炎天下だったため、毎日汗で全身ずぶ濡れになっていた。体の火照りは夜になっても治まらず、コンビニで売っている冷凍ペットボトルを脇に挟んだり、濡らしたタオルを頭にかぶせたりしながら歩いた。ペットボトルは毎日6本以上消費していた。

真冬でもない限り、水分補給は死活問題となる。ところが、数kmにわたって店舗も自販機も見つからず、飲料自体が補充しにくい区間もある。峻険な山道や、日差しを遮るもののない海沿いの道で、飲料が空になる不安は筆舌に尽くしがたい。

飲料は買えるときに買い、常に2~3本のペットボトルをストックしておかなければいけない。また、財布に常に小銭や千円札を残しておく必要がある。せっかく見つけた自販機で購入できないという最悪の事態を避けるために。

頻繁に訪れる「時間との勝負」

お遍路では、1日に複数のお寺を巡る。気をつけなければならないのが「納経所の終了時間」。基本は17時で、これを過ぎると参拝はできても御朱印はもらえなくなる。翌朝出直すことになるため、翌日の計画が大幅に狂ってしまう。足止めされるため、宿が離れていたら、その日泊まる場所にも難儀してしまうのだ。

こうした「時間との勝負」は頻繁にあるため「効率的な時間の使い方」が求められる。例えば、時間ギリギリにお寺に到着した場合は先に納経所で御朱印をもらうといい。参拝や観光は、そのあと時間を気にせず行えるからだ。

特にこだわりがなければ、参拝を簡略化する方法もある。一般的な手順は、納札~線香~賽銭~読経~合掌。これを本堂と大師堂の2カ所で行うので、それなりに時間がかかる。しかし、参拝方法はこうすべきという決まりがあるわけではなく「境内で呼吸するだけでもお参り」という考えがあるように、大事なのは心の持ちようだ。筆者は、途中から読経の代わりに「南無大師遍照金剛」と3回、お寺ごとに決まった「御真言」を1回ずつ唱える手順で回った。「簡易参り」と言うそうだ。

これらは初日に出会った地元の方から教わった方法で、その後の時間節約に大いに役立った。

お遍路は「人生そのもの」

通し打ちの歩き遍路について、特に気をつけるべき事柄をいくつか紹介した。これ以外にも、実際に歩き遍路を始めれば、さまざまな出来事と遭遇するだろう。苦しいこともあるが、それ以上に嬉しいことも多い。

よく、歩き遍路は「人生そのもの」と例えられる。

道のりの果てしなさに、否応なく自分自身と向き合わされる。内面では疑念や後悔が巻き起こり、それでも歩き続けると、突然、見知らぬ人が缶ジュースをくれたりする。中には「歩いているのを見かけたので、急いで追いかけてきた」と蜜柑をくれる方もいる。そんな「お接待」が、何度、疲れ果てた心と体を軽やかに弾ませてくれたことだろうか。

逆に、嫌な態度を取られることもある。人間不信となり、不貞腐れる自分に気付いて、自己嫌悪に陥ってしまう。また、時には旅仲間と出会い、今でも続く友情に育ったりもする。日々そんな出会いと別れが繰り返される。

飲食の大切さは常に身をもって思い知り、生と死を鮮明に感じることもあれば、目的地に着いて達成感に打ち震えることもある。そうして過ごす数十日間は、さまざまな感情が矢継ぎ早に押し寄せるため、本当に濃密なものとなるのだ。

これから歩き遍路に挑む方にも、さまざま出来事が待ち構えているだろう。一歩一歩と進む先で、ぜひ自分なりの「何事にも代えがたい貴重な体験」を肌で感じとってほしい。

この記事を書いた人

四国遍路の結願者が語る!歩いてみないと分からない注意点やコツ

かわしまひろゆき

ライター

千葉県出身、茨城県在住。
IT系Web媒体で編集記者を10年間務める。教育、医療、農業、建設、災害対策、行政などの公共分野を中心に、IT技術によって社会がちょっぴり便利になっていく様子を取材。ITを使った地方の取り組み(地域活性化)にも興味津々。結婚、出産を機に茨城に移住し、フリーライターとして活動中の一児のパパ。趣味はインテリア、建築巡り、DIY、登山、街歩き、温泉巡りなどなど。

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