現代人の「スイーツアディクション」について医療人類学的観点から考察してみる

●「ハレ」の日に食されてきたスイーツが「ご褒美スイーツ」として食される時代に。
●スイーツの「入手のしやすさ」がアディクション行動につながる。
●糖分はアヘンに似た天然の脳内物質「オピオイド」の産生を活性化させる。
●スイーツアディクションには必ず「罪悪感」という感情がセットでやってくる。
●砂糖はコカインやアンフェタミンのような薬物にも感作(かんさ)する。
●精製糖はビタミンやミネラルなどの不純物を取り除くため、薬品並みの純度になる。
●単身世帯の増加により、依存の対象が人から物へと変化した。
●人間はスイーツと依存関係を結ぶようになり、スイーツで快楽を得るようになった。
●スイーツアディクションは害のない代替行為によって解消可能。

この記事を読んでくださっている皆さんは、甘いものやスイーツはお好きですか?私は甘いものが大好きで、疲れたときなどはチョコレートをついついつまんでしまうこともしばしば。では、文化人類学の用語として「スイーツアディクション」という言葉はご存知でしょうか。アディクションとは「addiction=嗜癖(しへき)」と訳され、ある特定の物質や行動、人間関係を好む性向にあることを意味します。

外食に行ったらデザートを食べないと締めた気がしない、といった経験はありませんか?また、雰囲気を重視してスターバックスでフラペチーノを購入し、撮影してインスタグラムに上げずにはいられなくなることはありませんか?アディクションは、人を「病みつき」にさせる一種の人間行動です。今回は「スイーツアディクション」の観点から、われわれ人間を科学していきたいと思います。

現代人のスイーツアディクションは入手のしやすさにあった!

スイーツの定義は昔と今で異なる

もともとスイーツは、日本において季節行事か、誕生日などの特別な「ハレ」の日に食されてきました。ところが、現代においては「ハレ」の日に加えて、自分自身への「ご褒美」として食す、もしくは落ち込んだときに気分を向上させるなど、一種の向精神薬のような感覚で食されるようになっています。

“入手のしやすさ”がスイーツアディクションにつながる

スイーツアディクション、つまりスイーツ依存には欠かせない要因があります。それは「入手のしやすさ」です。入手のしやすさには、

①物理的な入手のしやすさ
②心理的な入手のしやすさ(人格、背景、信念などがスイーツの食用を促すかどうか)
③経済的な入手のしやすさ(特定のスイーツが手に入る価格であるかどうか)
④社会的な入手のしやすさ(社会的状況がスイーツの食用を促すかどうか)

の4種類があります。極端な例ですが、薬物依存症の人にとっては、薬物は特定のルートでしか買えず(➀物理的に入手しにくい)、薬物が人体に害であると分かっていながら(②心理的に入手しにくい)、1グラム当たり数千円もする乾燥大麻を購入しますが(③経済的に入手しにくい)、大麻を所持することは法律で禁止されているため、大麻取締法違反となります(④社会的に入手しにくい)。

その昔、砂糖は高価な食材でした。しかし、現代では人工甘味料の開発が進み、スーパーマーケットやコンビニエンスストアなどで売られているチルドスイーツのように、安い価格で甘いものが手に入るようになりました。

自身が望めば、手に入れるためのお小遣いさえあれば、繰り返し購入し、摂取することが可能な時代となったことで、スイーツは4つの「入手しやすさ」をすべて満たすアディクションとなり得たのです。そのため、スイーツアディクションは“現代特有のもの”と定義づけることができます。

気分が落ち込んだから、自分へのご褒美に……その結果、スイーツが病みつきに!

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快楽を得るためのスイーツ

「病みつき」とは、その行動を繰り返ししなければ不安に駆られる、といった症状です。午後の眠たい目を覚ますために甘いカフェオレを飲むと決めている人、残業で疲れたときに無性に甘いものが食べたくなってしまう人、これらの行動はスイーツアディクション、つまりスイーツへの病みつきに該当します。なぜならば、彼らは快楽や癒しを得ること、気持ちの切り替えを目的としてスイーツを摂取しているからです。

快楽や癒しとしてのスイーツの力

私たちがスイーツを食べて「幸せ!」と感じるのは、気分だけの問題ではなく、科学的に裏付けされた証拠があります。

糖分依存症の研究を率いたアメリカプリンストン大学の神経科学者バート・ホーベル氏によると、糖分はアヘンに似た天然の脳内物質「オピオイド」の産生を活性化させることが分かりました。彼が行った研究では、糖分をむさぼり食べたラットは、糖分の供給が停止したときに離脱症状(薬などの摂取を減らす、もしくは断った際に生じる症状、いわゆる禁断症状)を示したそうです。私たちはスイーツを食べることで、自ら生成するオピオイドに依存するようになります。

スイーツアディクションと「罪悪感」はセット

しかし、快楽や癒し、「おいしかった!」という満足感を得られるのはほんの一瞬です。スイーツアディクションには、必ず罪悪感が伴います。あなたは今から食べるスイーツのカロリーや、脂肪分を気にすることはありませんか?「太りそうだなあ」と思いながらも「これは今日一日頑張った自分へのご褒美なのだから」とか「明日は運動をして、今摂取したカロリーを消費しよう」などと、自分自身に言い訳をすることになるでしょう。

スイーツの原料となる砂糖は人体において薬物と同じように作用する

砂糖は薬物にもなり得る

アメリカのプリンストン大学心理学部の科学者チームが行った実験によると、ラットを使用した実験において、通常の餌に加えて大量の砂糖水を断続的にラットに与え続け、ある一定期間与えないでおくと、禁断症状を起こすことが明らかにされています。そして、再び砂糖水が与えられると、むさぼるように飲み干したそうです。

面白いのは、再び与えられるアディクションがアンフェタミンやコカインなどの薬物でも、ラットは同じくむさぼるように食べるということです。このように、再び与えられる依存性が高いアディクションが、依然与えられたアディクションとは異なるものでも同様の反応を示すことを「感作(かんさ)する」といいます。このラットの実験により、砂糖はコカインやアンフェタミンのように作用することが発見されました。

コカインはアルカリ性の窒素化合物であり、アンフェタミンは日本以外の国々では注意欠陥多動性障害(ADHD)の標準的な治療薬として使用されています。主な元素は炭素、水素、窒素です。これらのような薬物と砂糖が、人間などのさまざまな生物に麻薬のように作用するというのは、いささか不思議な気もしますね。しかし、その仕組みは次の項で明らかになります。

砂糖は薬品並みの純度を持つ

この記事でいう「砂糖」とは「精製糖」を指します。原料のサトウキビなどを絞って不純物を石灰などで沈殿させ、上澄み液を煮詰めたり、真空状態で濃縮したりして水分を除去します。これが原料糖(粗糖)です。原料糖を温水に溶かしたり、遠心分離機にかけたりしてビタミンやミネラルなどの不純物を取り除き、糖質の純度を上げて精白、精製していきます。

精製の過程でビタミンやミネラルなども除去されることとなり、結果として100%糖質という、普通の食品ではありえない成分となってしまいます。これは、まさに薬品並みの純度です。

Photo by photoAC

人と人との「共依存」からスイーツアディクションによる依存の時代へ

共依存とは

「共依存(co-dependency)」とは、一般的には1970年代終わりのアメリカで生まれた、アルコホリックの治療にある臨床現場の概念のことです。アルコール依存症の夫と、その面倒を見る妻が互いに依存しあい、疲れきっていても離れられない関係のことを指していました。

しかし、この記事では共依存を大きな範囲で捉え「依存者とサポートする者が互いに依存関係にあり、相手に必要とされることに喜びを感じる状態」のことを指し示すこととします。

“共依存”から“個人”へと変化

極端な例にはなりますが、昭和中期頃を例にとって見てみましょう。

当時は24時間営業のコンビニエンスストアのような便利さは当然なく、人と人とが支えあって行かなければ生きていけない時代でした。ところが、今はどうでしょう。一部の地方を除いて、都心部には便利な24時間営業の店舗、ファストフード、コインランドリーにネットカフェなど、お金さえあれば生きていくのに難しい時代ではなくなりました。それに伴い、単身世帯数も年々増加しています。
一人暮らしが増えたとするならば、今まで人と人とが支えあって生きてきた共依存の喜びはどこに行ってしまったのでしょう。私は、その喜びはスイーツに向かったと考えています。つまり、今まで依存の対象が「人」であったのに対し、今度はスイーツという「物」に変化していったのです。だから皆、ご褒美スイーツを買ったり、新作のフラペチーノを楽しんだりするようになったのだと考えられます。

アディクション行動は害のない代替行為で解消可能

多少私の主張(論理)に批判が聞こえてきそうですが、実際問題、コールドストーンのアイスクリームや、スターバックスのフラペチーノを購入する人の数は年々増加しています。

私は、なぜ人々は甘くて魅惑的な食べ物や飲み物の虜となって、繰り返し購入することをやめられないのか、疑問で仕方がありませんでした。見栄えのするスイーツや飲み物への依存度が高まったのには、スマートフォンの発明やSNSの発達なども切り離せない要因ではあります。しかし、今回は甘いものを食べることに対する意味合いの変化や、単身世帯数の増加を背景に、スイーツアディクションを取り上げました。

また、「アディクションは感作する」と述べましたが、現在お菓子の食べ過ぎで困っているという方に、お菓子(スイーツ)へのアディクション行動は、他人や自分に害のない他のアディクション行動に代替することで、解消できることをご紹介したいと思います。

私自身、毎日のアイスクリームがやめられず、体重が増える一方でした。ほとほと困っていたのですが、アイスを食べる代わりにアーモンドとレーズンを食べてみる、この方法で満足感が得られるようになってきたら今度は青汁に置き換えてみる、という方法でアイス断食を試してみました。結果的にうまくいき、今では甘いものをほとんど欲しない体へと変化させることができました。何らかのアディクション行動でお困りの方は「害のない代替行為」が自分を救うことになると、覚えておいていただければ幸いです。

絵:内藤マリオン作

この記事を書いた人

現代人の「スイーツアディクション」について医療人類学的観点から考察してみる

石児ちひろ

ライター

神奈川県在住。医療人類学をテーマにした記事を得意とする神奈川県在住ライター。文学部出身。珈琲と温泉をこよなく愛する。スパが大好きで週一で通う。これから執筆する記事のテーマに「リーダーシップ論と女性」「プチプラコーデでお洒落に着こなす」等を加える予定。

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