いまのビジネスパーソンに不可欠なスキルとして、プレゼンテーション(以下、プレゼン)があります。このプレゼンをこなすのは中々大変で、話を聴いてもらえずに苦労されている人も多いでしょう。
色々な入門書やスティーブ・ジョブズのような「名人」の振る舞いから学んでいる人もいると思います。良い素材はどこかにないでしょうか。プレゼンを欧米やアジアの各国で行い、30年以上のビジネスコミュニケーションに携わってきた筆者の反省から真髄に迫ってみたいと思います。当記事では、身近で飽きずに学べる素材として「お笑い」を題材にプレゼンを分析します。
プレゼンとお笑いの4つの共通点
プレゼンとお笑いには、多くの共通点があります。特にライブのステージを観てみると「なるほど」と勉強になる点があります。
(1)演者(スピーカー)と観衆(リスナー)の関係性
(2)起承転結の流れ
(3)思考方法(ロジカルシンキングとクリティカルシンキング)
(4)最新ツールの効果的利用法
この4点を注意深くみてみるとプレゼンをワンランクアップしたものにすることができます。
プレゼンで注意しなければならないことはいくつかありますが、肝心なのは姿勢です。あまり「説得」に注力しないようにしましょう。リスナーの「納得」に起点を置き、共感を得ることがゴールです。芸人がいくら「面白いでしょう!?」と問いかけても笑ってはくれません。
スピーカーとリスナーの関係性
プレゼンの場には、お笑いの劇場やライブハウスのリスナーと同じ要素があります。それは、お客さま(リスナー)が演者(スピーカー)の話を聴きにきていることです。ビジネスシーンでは、新製品発表会や価格交渉の商談のようにリスナーが目的を持って集っていることです。立場は違っていても何らかの目的を持って「場」の共有をしています。利害関係を持っているわけです。マーケティング用語では、「ステイクホルダー」(英: stakeholder)と言われ、「杭」を繋ぎ「固定」する者のことです。ビデオプレゼンでない限りプレゼンは多くの場合はライブで行われる瞬間芸です。スピーカーにはシナリオの準備と同じく、その場を読み解き話すアドリブの力が求められます。
プレゼンの流れ
起承転結の前に、実は重要な導入部分があります。お笑いにおける「ツカミ」、落語では「枕」にあたる小話の部分で、自分の土俵にリスナーを引き込む「前フリ」です。この導入部分でリスナーの関心を惹かないとその後のお話を聞いてもらえません。この後に、起承転結のプレゼンの流れがきます。
2017年の流行語大賞にもノミネートされた、お笑いタレントのネタ「35億」の起承転結をみてみましょう。
【起】 場面設定(ダメウーマン)
【承】 問いかけ(味の無いガムを食べ続けるの?)
【転】 ソリューション(世界に男は何人)
【結】 35億(35億+5千万)
このネタを劇場や客層に合わせて、タイミングをみながら繰り出すわけです。
ロジカルシンキングとクリティカルシンキング
三段論法に代表されるロジカルシンキングは、概して常識や定理を前提に組み立てる場合が多いです。それに対してクリティカルシンキングは「批判的」「懐疑的」に別の角度からみる思考方法です。
例えば算数では「三角形の内角の和は180度である」ことを前提に問題を組み立て解答を導き出します。高等数学〜非ユークリッド幾何学では、球体の上の三角形も含めて考えますので、180度になるのは「特異点」としての解となります。
「35億」ネタをクリティカルシンキングで別ネタにすると次のようになります。
【起】 場面設定(ダメ人間)
【承】 問いかけ(味の無いガムを食べ続けるの?)
【転】 ソリューション(世界に人間は何人)
【結】 70億(70億+1億-1)
元ネタの35億は地球上の人口を70億(71億の場合もあります)と仮定したときの数で、その半分が男性で「35億(+5千万)」にオチがきています。
これを性差をなしに考えれば70(71)億になり、オチは「70億(+1億)」になり、自分を引くと-1となる訳です。
*設定条件を異性から同性にまで広げてみると興味深いことになります。
どちらのネタが面白いかは別として、“お笑い”の中には考えさせてくれるヒントが沢山かくされています。特にネタの作り方もそうですが「間」(ま)の取り方がリスナーの共感を得るのに重要です。難解なネタは長めの間合いを設けないとリスナーの理解が追いつかないので要注意です。お客様をおいてけぼりにしてはいけませんね。落語の噺のひとつに、昼間に寄席に行って「オチ」が理解できたのが夜中、布団の上で大笑いする話しがあります。
最新ツールも使いよう
最近のお笑い芸人は、プロジェクターやスマートフォンなど最新のIT機器を巧みに使ったネタを披露しています。落語であれば、座布団と扇子と手拭いと相場は決まっていますが、プレゼンの場合は落語のように制約はありません。自由にツールを使うことができますので、充分に活用して効果的に話をすすめたいものです。
さて、定番となっているプロジェクターを使ったビジュアルプレゼンには、実は大きな「落とし穴」があります。学生や新入社員に多く見受けられますが、道具に使われてしまうことです。
PowerPointやアップルのKeynoteなどのスライド作成ソフトはとても良くできています。ともすると、ソフトにデータを入力していくだけでプレゼンが出来上がってしまったように勘違いをしてしまいます。ソフトはあくまで「従」で話術が「主」です。お笑い芸人も話を面白くするためにIT機器を使うのであってツールはあくまでツールとして活用しています。ビジネスプレゼンの時も肝に銘じたいところです。
当知是処 即是道場(まさに知るべし、このところは、これすなわち道場なり)
どうでしょう、“お笑い”には学ぶところが沢山あると思いませんか?
法華経の教えのひとつにある「当知是処 即是道場」。どこにいても身近なものから学べる、それは道場のように修行をせよとの教えです。難しい文献や解説書を読むことも大切ですが身近な素材に目を向けて、ビジネスで必要不可欠なスキルを磨いてみるのも一考の価値があると思います。