昨今では、Web小説投稿サイト「小説家になろう」発の書籍が各書店に多く並んでいる。それを見て、同サイトから作家デビューしようと思う方は多いのではないだろうか。確かにWeb小説投稿サイトであれば、各出版社が設けている小説コンテストのように何十万文字以上といった字数制限もなく、デビューできる人数が数人と決まっているわけでもない。しかし実際投稿してみると、デビューするのはそう簡単ではないことがわかる。
「小説家になろう」では、アクセス数や感想欄・レビューといったものを通して、投稿した作品の反響を直に受け取ることができる。これはモチベーションの向上を促す要素ではあるが、逆に低下に繋がる要素でもある。何万文字書いても一向に読まれる人数が増えず、ランキングに載ることもない。ただ執筆にかかった時間だけを無為に消費してしまったと感じる人も多いのではないだろうか。
何故読者が増えないのか。面白い作品かどうか、確かにそれもあるだろう。しかしながら、それは重要な要素であっても全てではない。
今回は、読まれるための工夫やアクセス数を増やす方法について、個人的見解を述べさせていただきたい。
スマートフォンでの読みやすさを意識しよう
Web小説が読まれる媒体は、主にパソコンか携帯端末の2通りである。どちらの媒体からのアクセスが多いか比較するため、「小説家になろう」に投稿された作品の内、総合ランキング上位5作品の総合PV数(アクセス数)を確認した結果が以下である。
・パソコン:約5億4200万PV
・携帯端末:約8億7100万PV
実に、パソコンと携帯端末ではアクセスする人数に約1,6倍の差があることがわかる。
さらに、携帯端末は大別するとフィーチャーフォンとスマートフォンの2種類に分けられる。そして、アクセス解析を見ると数多くの人がスマートフォンから見ていることがわかった。また、総務省の「情報通信白書」を見る限り、今後もスマートフォンの読者が増えることが予想できる。
前述を踏まえ、スマートフォンでの閲覧率が高いと仮定して、読みやすい話とはどんなものかを考察してみよう。いくつかの作品を読んで得た個人的な見解は以下である。
(1)文をあまり長くせず、小まめに行間を空ける
(2)1話あたりの文字数を4000〜6000文字にする
まずは(1)について。一見すると大したことではないように思える。だが、スマートフォンはパソコンと異なり、1行で表示できる文字数が少なく、行間を詰めて書くと画面の半分以上が文字で埋まってしまうこともありえる。実際に自分で書いて読んでみるとわかるが、これは非常に読みづらい。
続いては(2)について。スマートフォンの利点は紙媒体と異なり、かさばることなくどんな状況でも使いやすいことにある。そして、「小説家になろう」のアクセス解析を見てみると、各時間帯でのアクセス数にそれほどの差がないことから、通勤時や学業・就業時の休憩時間など外出先の空いた時間で読んでる人が多いと考えられる。
国土交通省の都市交通調査によると、東京都市圏における「路線バス・鉄道」の平均的な所要時間は約49分である。ただし、山手線1周の時間がおよそ1時間であることから、実際の乗車時間は30分以下だろう。
【参考】 都市交通調査
次に、学生やサラリーマンの昼休憩を除く「授業・講座」間と休憩時間は10〜15分ほどであることが多い。そして、日本人が1分間で読める平均的な文字数は約400〜600文字である。これらを踏まえ、空いた時間を10〜30分程度と仮定する。その上で最低値である10分を区切りとして考えると、1話あたりの適正文字数は約4,000〜6,000文字だろう。
Web小説の読者は、各出版社が設けるコンテストの審査員や文庫本の購入者と異なり、作品を読まなければいけないわけでもなければ、購入したのだから最後まで読もうという気位があるわけでもない。読んでもらう人を少しでも増やしたいのであれば、可能な限り読みやすい文章を書くように心掛けるべきだろう。
ランキングに載りやすいジャンルを知ろう
どんなに面白い作品を書いたとしても、読まれなければ評価されない。そして、読んでもらうためにはまず人目につかなければならない。しかし、毎日数多くの作品が投稿される「小説家になろう」では、よほど飛び抜けて面白い作品でもない限り埋もれてしまう可能性が高い。つまり、投稿初期の段階である程度アクセス数を稼がないと、他人の評価すら受けられないのである。
では、どうすればいいのか。まず効果的な方法としては、ランキングに載せるという方法が挙げられる。ランキングに掲載されれば、短くても1日、長ければ1月以上、作品の宣伝をすることができる。
容易ではない方法に思えるかもしれないが、作品のジャンルによっては不可能ではない。それはジャンルによってランキングに掲載されるための必要ポイントに差があるからだ。
以下、各ジャンル1位作品を一部抜粋。
◆2017年6月17日日刊ランキングのジャンル別集計(pt)
・異世界(恋愛):1874
・現実世界(恋愛):412
・ハイファンタジー:2656
・ローファンタジー:2437
・純文学:64
・ヒューマンドラマ:144
・歴史:348
・推理:130
これを見れば一目でわかるが、異世界(ファンタジー)もののアクセス数は飛び抜けて多い。一番顕著な「ハイファンタジー」と「純文学」では約41倍も差があるのだ。つまり、異世界や恋愛など特定ジャンルに拘らなければ、ランキングに載るための難易度はぐっと下がる。
個人的なオススメは、純文学である。なぜならば、あまり投稿されにくいジャンルというのもあるが、作品の許容範囲が広いからだ。恋愛とまではいかない青春ものやコメディの入った日常もの、さらには多少不思議な要素があっても、明確な超常現象や能力がない限りはこのジャンルで投稿しても問題ないことが多いのである。ただし、これはあくまで筆者が投稿してきた経験によるものであるため、内容次第では他ジャンルに移すよう要請が出る可能性はある。
作品のテーマが一目でわかるタイトルにしよう
とは言っても、やはり自分の好きなジャンルで書きたい人は多いだろう。そこで次は、読者を呼び込む看板と言える作品のタイトルについて注目したい。
Web小説は文庫本とは異なり、特徴的で印象に残る詩的なタイトルよりも作品の内容やテーマがわかりやすいタイトルが多い。特に、ランキング上位作品にはその傾向が顕著にあらわれている。例えば総合ランキング1位の「無職転生」は、無職で引きこもりの青年が異世界へ転生する内容の作品だ。そして11位の「盾の勇者の成り上がり」は、4人の勇者として召喚されながらも他者3人より冷遇されていた主人公が、様々な出来事を通して成り上がっていくことをテーマとした作品である。
これは、新規作品やランキングの一覧が作品のタイトルのみで表示されるため、異世界転移や転生といった同じジャンルの作品が多い中で育まれた傾向と考えられる。これらを踏まえると、Web小説でも人気のあるジャンルを書こうとするのであれば、内容を単語のみで要約したものか、作品のテーマを簡潔に述べたものをタイトルに据えるべきだろう。
各話での緩急や盛り上がりを意識しよう
さて、タイトルで読者を呼び込めたら、次はその読者を離さない物語が必要だ。そこで筆者が読んだ作品の中で一番上手く話が構成されていると思った作品について語ろう。それは、累計総合ランキング3位の『ありふれた職業で世界最強』である。
この作品は、クラスメイト達と共に異世界へ召喚された主人公が「錬成師」というその世界ではよくある能力を極めていき、最終的には世界最強へと至る、といった話である。テーマは異世界転移や特殊な力など特に珍しくもないが、世界観が作り込まれており、文章も他作品とは一線を画す上手さである。
だが、作者の最も非凡なところはその構成力の高さだ。序盤の話を要約すると以下になる。
1話
異世界へ転移。主人公はすぐに状況に順応し、”冷静な主人公”という面を見せる。
2話
他のクラスメイト達が転移によって優れた能力を得た中、主人公だけその世界ではありふれた能力を持つことが判明。
3話
主人公の持つ能力が平凡なことが原因で一部のクラスメイトからいじめを受ける。
4話
過去の出来事からヒロインが主人公に好意を寄せているような場面。
5話
バトルシーン。主人公は能力を工夫して扱うことで少しでも弱さを補おうとする。
6話
バトルシーン。強敵の出現により生徒達がパニックに陥るも、主人公の機転によって何とか窮地を脱する。しかし、ヒロインとの仲を快く思わないあるクラスメイトの裏切りにより、一人崖から落ちてしまう。
【参考】『ありふれた職業で世界最強』
このように、作者は各話で主人公のポジションや状況を上げたり下げたりすることで、常に読者を離さない展開を描いているのである。
基本的に物語は起承転結で構成するものであるが、文庫本と同じ構成で物語を作ると、起承にあたる最初の数話で展開があまり進まず読者が離れていくことが多い。その点、この作品は各話を起承転で描くことで物語をスピーディーに進め、さらに次話が読みたくなるような構成にもしているのである。
作品全体や各章で物語が完成していることは大事だが、それに囚われてしまうと序盤や中盤で読まれなくなってしまう可能性がある。なるべく各話に緩急や盛り上がりを作り、読者が次の話も読みたくなるような構成を意識しよう。
読まれる作品にはそれなりの理由がある
今回述べた意識する点や書き方は人気作の全てに当てはまるわけではない。しかしながら、読み手を意識していない書き方をされた人気作というのもあまりない。
アクセス数が伸び悩んでいる作者様は、一度過去に投稿した作品が文章の書き方やタイトル、物語の構成が読み手を意識して書かれているかを読み返してみてはいかがだろうか。