なぜこれほどまでに刺さるのか?インディーズ音楽レーベル「UKプロジェクト」の魅力(音楽ライター)

●UKPプロジェクトとは、個性的なバンド、アーティストを多数輩出するインディーズレーベルである。
●スタッフ(UKPプロジェクト)とアーティストは親しい間柄になりやすく、社長が所属アーティストを「うちの子」と呼ぶほど距離が近い。
●UKプロジェクトが音楽を世に出す基準は「自分たちが好きか嫌いか」であり、スタッフの誰か一人でも気に入れば、GOサインが出る。その後は、レコード会社としてアーティストを全力でサポートする。
●代表して、UKプロジェクトに所属するsyrup16gとpaionia、きのこ帝国の3バンドの魅力をPVと共に紹介。彼らの“生き様”とも呼べる名曲に触れ、音楽の魅力を改めて伝えたい。

この歌手のレコード会社はどこだろう――。音楽を聴くとき、そんなことを気にする人はそういないと思います。私も、昔から音楽をたくさん聴いていたのにも関わらず、特段気にしていませんでした。ただ、あるとき気付いたのです。自分が愛して止まないアーティストのほとんどが、「UKプロジェクト(以下:UKP)」に所属していたことに。

純粋に疑問が湧きました。レコード会社とインディーズレーベルの両方を担うUKPは、これまで様々なバンド、アーティストを多数輩出しています。その世界観はどれをとっても独創的で、いわゆる“マイナー”と呼ばれる音楽。しかし、やたらと心に刺さる……。それがとにかく不思議でした。この記事では、ロックリスナーに愛されるUKPの歴史や思い、ユニークな方針から、凄いバンドやアーティストを生み出す秘密に迫ります!

インディーズレーベルという強み

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「レーベル」とは、レコード会社の傘下にある部門のこと。まず、レーベルには2つの種類があります。

・メジャーレーベル……日本レコード協会に入会していることが条件
・インディーズレーベル……日本レコード協会に入会していない

大きな違いは、日本レコード協会への入会の有無ですが、規模はメジャーレーベルの方が遥かに大きいです。莫大な宣伝費をかけ、全国規模で展開するメジャーレーベルに比べ、少人数制のインディーズレーベルは宣伝力に乏しく、知名度に差が生まれやすいのも事実です。また、スタッフや宣伝費を多く必要とするメジャーレーベルは、活動のペースや音楽性に至るまで大きな制約が課せられます。私も、好きなバンドがインディーズからメジャーに移籍したとき、「ずいぶんと方向性が変わったなぁ」と感じたことが多々あり、その小さな変化に気付くファンも多いです。

逆に、インディーズレーベルはそういった制約が少なく、アーティスト本人の意思をより反映することができます。よって、曲に込められたパワーが違う。メジャーな音楽はメッセージ性が強く、人を激励するような歌詞が多いけれど、インディーズの音楽は良い意味で自分本位。音楽に、自分の経験値や考えがより色濃く投影されているような気がしてなりません。それが、歌っている人の魂や生き様をみているようで、パワーを貰い、心打たれるわけです。

設立当初からブレない社風

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UKPが設立されたのは、1987年。ここからは、設立当初から一貫して変わらないUKPのユニークな社風や隠された思いに迫ります。

「自分たちが好きな音楽」が基準

UKプロジェクトの“UK”は、「Unknown(知られていない、未知の)」という意味からきており、“自分たちが好きなアーティストを世に出そう”というテーマで発足したレコード会社です。そもそも、売れなければCDをつくる意味はありません。それでも彼らは、とことんマイルールに拘ります。

事実、東京に事務所を構えるUKPに取材を熱望したところ「そちら(福岡)に行く予定がないので……」とあっさり断られました。他のレコード会社は、メール取材に切り替えるところですが……。とにかく、UKPはいい意味でマイペース。プロモーション活動を積極的に行うわけでもなく、「いい音楽だから売れるでしょ」という自信に、尊敬すら覚えます。

アーティストとの距離感が近い

UKPの社長は、所属アーティストを「うちの子」と呼びます。また、UKPからメジャーへ移籍したアーティストが完成したCDを事務所に届けにきたりもし、アーティストたちと定期的に飲むことも珍しくないそう。このエピソードから、スタッフとアーティストとの密な関係が窺い知れますよね。

UKPのスタッフは、「売りたい!」「儲けたい!」ではなく、良い音楽をつくることを応援したいという、あくまでイチファンの目線で仕事をしているのではないでしょうか。全幅の信頼を寄せるからこそ、自由につくらせ、全力の愛情を注ぐ。その環境づくりによって、力のあるバンドやアーティストを育んでこられたのだと思います。

名曲から紐解く“レーベルカラー”

UKプロジェクトが発信する音楽は、切なさを踏襲した曲が多いです。歌詞の世界観は独特で、過激な表現やマイナスな言葉が並ぶのもUKPならでは。ここからは、UKPのレーベルカラーを知ってもらうべく、厳選した3バンドとその名曲をご紹介します。

syrup16g『生きているよりマシさ』

2008年に解散し、その6年後に再始動。その節目にリリースされたアルバム『Hurt』からの1曲です。「ネガティブ……」そんな台詞が出てしまいそうなタイトルですが、軽快なシャッフルビートに乗せて歌い上げています。syrup16gの特徴として、マイナスな表現を使う傾向がありますが、最終的に絶望や悲哀を言い切ることはしません。この曲中にも、『君といられたのが嬉しい』『間違いだったけど嬉しい』といった歌詞が出てきます。切ないという表現がぴったりとハマる名曲です。

paionia『素直』

2008年に結成。ファーストミニアルバム『さよならパイオニア』に収録された1曲。若手で、まさに将来が楽しみなバンドです。“リアル”を切り取った世界観が人気で、「素直な唄を歌いたい 素直に君と話したい 酒気帯びでしか語り合えない こんな虚しい自分て何ですか?」といった“素直”すぎる歌詞を展開します。back numberを彷彿させるようなバンドかもしれません。

きのこ帝国『東京』

くるり然り、サニーデイ・サービス然り、「東京」という名のつく音楽には、なぜか名曲が多いです。きのこ帝国のボーカルもそれに気付き、「とびきりの名曲を!」と意気込んでつくったのがこの曲。また、きのこ帝国とUKPとの親好は特に深く、ライヴ中に「DAIZAWA RECORD(UKPのレーベル)」からデビューできたことが何より嬉しい」と語ったほどです。

ロックリスナーを魅了し続けるUKP

音楽は、時代を超えて受け継がれていきます。UKPも、これまでたくさんのアーティストやバンドが歴史を彩ってきました。それを超える勢いで、新生たちも続々と登場しています。音楽を選ぶという行為は、「好きか嫌いか」で決まるもの。歴史あるレーベルには、ブランド的価値がつきます。レーベルを意識して聴くことで、素敵なアーティストやバンドに新しく出会えるかもしれません。

この記事を書いた人

なぜこれほどまでに刺さるのか?インディーズ音楽レーベル「UKプロジェクト」の魅力(音楽ライター)

水上ゆかり

ライター・エディター

福岡県出身、神奈川県在住。
4年間、零細企業の編集ライターとして孤軍奮闘。ミュージックインタビューから店舗取材、撮影、校正まで一連の本作りに携わり、年間の取材数は300を超える。
その後、オーガニック製品(化粧品・雑貨)の商品企画を経て、フリーライターに。
得意ジャンルは、音楽、食、旅、美容、オーガニック。2017年にアロマ検定1級を取得。コスメ、石鹸作りが趣味です。

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