「ユニバス」は大学スポーツの革命的組織になり得るか?大学スポーツの今、そして抱える課題とは

●各大学の複数の部で、パワハラや暴力事案が発生し続けている。その結果、退部や退学に追い込まれる選手が後を絶たない。
●大学スポーツ界で不祥事が起きる原因としては、古い体質の蔓延や、大学スポーツ界全体の連携不足などが挙げられる。
●特待生で入学した部員は、授業にもあまり顔を出さない。スポーツで活躍する選手は、大学の顔・看板として重宝され卒業していく。一般の学生が、これで納得しているのだろうか。
●今年3月に発足したユニバス。全国約200大学が参加したが、慶応大学、筑波大学、明治大学、神奈川大学といった特に関東圏のスポーツに力を入れている大学が、参加を見送った。
●ユニバスに参加した大学と、参加を見送った大学。それぞれの未来とは。
●ユニバスの構想が全国の各大学に定着すれば、将来の日本のスポーツ界は明るい。

昨今、大学スポーツ界の不祥事が相次いでいる。2018年に世間を揺るがせたアメフト問題や、複数の大学の陸上部で起きたパワハラ、柔道部でのコーチによる体罰・傷害事件など……。2019年に入ってからは、野球部の監督による暴力事案が発覚した。

では、なぜこのような問題が次々に起きてしまうのか?ここに例示した全ての問題を取材したうえで、大学スポーツ界の未来について考察する。

大学スポーツ界で不祥事が起きる背景

今なお蔓延する古い体質

なぜ、このような不祥事が次々に起きるのか。それは、大学スポーツ界に今なお古い体質が蔓延していることが根底にある。かつての日本スポーツ界では、当然のごとく暴力的な指導が行われていた。
そんな中、中学・高校では、文部科学省・都道府県教育委員会・学校現場が三者一体となって暴力・体罰の根絶に向けて色々な取り組みをしていた。一方で大学は「高等教育」という名の壁を使い、中学・高校のような取り組みをしていなかった。大学には最高学府であるという驕りがあったのだろうか。これがパワハラ・暴力の温床となってしまったのである。

国からの指導権限

中学・高校に対して、国は指導権限を持っている。しかし大学に対しては、「お願い」という指導権限とは程遠いものしかないという根本的な制度の不備がある。大学でパワハラが起きても「報告のお願い」「改善のお願い」しかできないのが現状なのだ。大学に指導しようとしても「何を根拠に言っているのか?」というような大学側からの反発に国が屈してしまうのが現状だ。
この権限の弱さ・法的不備が大学スポーツ界で不祥事そして問題が無くならない要因にもなっている。

隠蔽体質

特に、私立大学に隠蔽体質の傾向が強い。問題が起きても、今流行の第三者委員会を積極的に自ら設置しようとしない。「事実が判明していても、調査しようともしない。」こういった事実を隠そうという体質が大学には存在する。
ある大学幹部は「大学は、私学助成金頼りのぬるま湯体質に浸っているから、理事、職員に、危機感が無い」と述べている。また、学生が大学にパワハラなどの相談をしても、親身になって対応してくれないという現状もある。

連携不足

中学校には中体連、高等学校には高体連という競技にとらわれない横断的な組織が存在する。一方で、大学スポーツ界にはこのような各スポーツ界の壁を乗り越える横断的組織が無い。各スポーツ競技団体は存在するが、各競技団体で独自に運営している感がどうしても否めない。そして、各競技団体の良いところを吸収しようという姿勢も見当たらない。

大学スポーツ・運動部学生の実態

大学スポーツは「プロ」なのか?

箱根駅伝に出場する大学陸上部には、企業スポンサーからそしてOB会から多額の資金が流れている。その額が3000万から1億を超える大学もある。この資金の管理を、ほとんどの大学が部独自で行っている。
この資金を監督の個人口座で管理している部もあるという話がある。この部に入った資金の税金はどうしているのか?各大学から疑問の声があがっている。また、箱根駅伝に出場する部は「プロ」なのか?このような他の学生アマチュアスポーツとはかけ離れた実態にも批判が出ている。

運動部学生の本来の姿とは?

特待生で大学に入学し、授業にも出席せずに大学の宣伝のための「看板」になっている学生もいる。怪我などで、活躍出来ずに夢破れて部を退部する学生。大学を中退する学生。留年する学生。「そもそも大学スポーツ界がこんな状態で良いのか?」という意見が新聞紙上を賑わせているのが現状だ。

新組織「ユニバス」に対する期待

統括組織「ユニバス」の発足

これらの問題を解決すべく、2019年3月に大学の運動部を横断的に統括する組織「ユニバス」が立ち上がった。数年前から、日本版NCAAを発足するという名目で各大学から大学教授などの専門家を招集し、準備委員会を設立していた。
そして、安心・安全なスポーツ環境作りのためにいくつかの準備委員会を立ち上げ、各委員が活発な議論を重ねていった。東京駅周辺に委員が自主的に集まって議論を重ね、そして地理的に遠く離れた場所にいる委員とは、スカイプを使って議論するという姿もあった。そんな経緯をたどり、苦労・準備を重ねた結晶が今年3月1日に立ち上がった「ユニバス」という組織なのである。

ユニバスのテーマ

「安心・安全なスポーツ環境作り」がこの組織の大きなテーマだ。そして、学業とスポーツの両立も大きなテーマになっている。将来的にはレギュレーションを設けて、例えば年間何単位以上取得していないと試合に出場出来ないというシステム作りも計画されている。
関西学生柔道連盟では、このレギュレーションを既に実施済みであり、このように先行実施されている例を参考に制度作りが進められる。
また、現在各大学が加入している保険制度の不備も指摘されており、何か起きたときのための保険制度をどう補完していくか?どうすれば、安心なスポーツ環境を作れるか?こういった問題についても、今後議論が深められていく。

そして、部の会計管理についても制度が整えられつつある。現在いくつかの大学では、指定した5~7部について大学が会計の管理を行っている。監督個人の口座で管理するといったことが起きないように、まずは少ない数で試験的に行って、それを制度化し大学全体の部へ広げたい考えを持っている大学もある。
ユニバス所属大学でも「運動部の会計管理をどうしていくか?」という問題も重要なテーマのひとつ。この会計管理をユニバス所属大学では、どうしていくのか?これも喫緊の課題である。

また、大学運動部を魅力あるものにしていくために、試合を動画配信する計画も進んでいる。大学スポーツは、一部の部を除いて観客が少ないという問題も抱えている。一部の大学は、広告代理店と協力してマイナーな運動部の観客を増やすイベントを計画している。ユニバスが、色々な取り組みを行い、大学スポーツ界をどう盛り上げていくかにも注目だ。

参加大学数

4月7日現在、199の大学がユニバスへの参加を表明している。大学は約760あり、その中で運動部がある大学は約400。この内の200大学に参加して貰うということがスポーツ庁の目標だった。将来的には、全大学の加入を目指している。
昨年度は、ユニバス結成への盛り上がりに欠けたために今年に入って、スポーツ庁担当者が参加するかどうかを迷っている大学に対して、営業活動を繰り広げる姿もあった。

そんな中、準備委員会の中心メンバーだった委員の所属大学が、複数参加を見送ったのは残念だった。慶応大学、筑波大学、明治大学、日本大学、神奈川大学といった関東のスポーツ強豪校が加盟していない現実もある。

ユニバスの志はスポーツ界を明るく照らす

数々の問題を抱えている大学スポーツ界。ユニバスは、多くの問題の解決の一助になり得るのか?この点を国民全体で注視していく必要がある。例えば、運動部でパワハラ、体罰が発生した場合ユニバスに相談窓口を設け、学生が直接相談出来る体制を整える予定だ。そして、パワハラ問題解決のために問題が発生した大学との交渉に、法律事務所を担当させる予定である。

初年度の予算規模は、20億円。このほとんどを企業スポンサーからの資金提供で賄う予定。現在のところ、その半分程度が集まっている。

ユニバスの志は、素晴らしい。ユニバスの構想が全国の各大学に定着すれば、将来の日本のスポーツ界は明るい。来年は、いよいよ東京オリンピックが開催される。オリンピック開催国に相応しいスポーツ界にしていくことがニッポンの課題であると言えよう。

この記事を書いた人

「ユニバス」は大学スポーツの革命的組織になり得るか?大学スポーツの今、そして抱える課題とは

小野貴弘

記者・クリエイター・ライター

出身地:福島県 現在地:福島県
レコード会社や塾講師、大手損保の営業マンの経験を存分に生かし、取材活動を展開中。過去の経験を生かしながら、エンタメ・スポーツ・教育・地方自治・保険・社会問題全般まで、広く記事を執筆しています。「信頼」を最も大事に、取材・ライティングを行っております。読者の皆さんの本当に知りたいことにアプローチ。「傾聴力」に絶対の自信があり、取材対象者の本当に伝えたいこと×読者の知りたいことを、上手にマッチングさせます。

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